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1ー1 異世界帰りの勇者

新作始めました。よろしくお願いします♪

 ついにこの日がきた。

 俺は鈴木聖也すずきせいや、27歳、この世界では勇者と呼ばれている。


「セイヤ、元の世界に帰ってしまうのですね」

 聖女が両手を胸の前で組んで、うるうるした目で見上げてくる。


「お前がいなくなるなんて、本当に信じられないんだけどな。本当は皆んなお前に居てほしいんだぜ」

 俺が異世界でパーティを組んでいた皆んなが、俺を囲んで最後の別れを惜しむ。


 俺は10年前、魔王を討伐する為に日本から異世界に召喚された。そして無事に魔王を討伐して、今日ようやく日本に帰る時がきたのだ。


「皆んな元気でな! 俺もこの世界に来て10年だ、本当は皆んなとこの平和な世界で暮らしたいよ。だけど、異世界召喚の仕組みがある以上しょうがない」


 異世界からの勇者召喚は「転移の間」を使用して召喚するシステムになっている。

 皆んなもよく知っているように、世界に魔王が現れたりして危機が起こると、異世界から勇者が召喚される。

 そしていったん勇者を召喚すると、勇者が死亡しない限り、次の勇者を召喚する事はできない。


 もちろん魔王の討伐に成功すると、勇者は元の世界に戻る事ができるのだが、元の世界に戻るか異世界に居続けるかは任意に選べないんだ。

 使命を終えた勇者が元の世界に戻らないと、次の勇者を呼べないシステムとなっていて、必ず帰らなければいけない。


「セイヤよ、そろそろ送還の準備が整ったようじゃ。寂しくなるが元気でな」

 この世界の王様が、しみじみと語りかけてくる。


「ええ、王様も。そうだ、勇者の装備をお返ししなくっちゃ」

「それは持っていくが良い。それに、その装備はセイヤの魔力にしか反応せんしな」

「王様…、ありがとうございます!」

 俺はそう言うと、胸のネックレスに吊るされているロザリオを握りしめた。


 転移の間の床に描かれた魔法陣がまばゆく光りだした。

「それじゃあ、皆んな元気でな! 今までいろいろありがとう…」


 次の瞬間、俺は薄暗くなった公園に一人いた。


「日本に帰ってきたんだ…」

 俺の心の中に寂しさと、やっと帰ってきたんだという安堵あんどが一緒に押し寄せてくる。


 ふと気付くと、俺は高校生の制服を着ており、懐かしい学生の頃使っていたカバンも肩にかけていた。

 そう、異世界召喚されたあの日の姿そのままだ。


「異世界召喚された時、全部無くしたと思っていたら…、と言うか、これヤバくないか? 27歳の大人が学生の格好なんて…なにっ!」


 ここで俺はいつもの癖でアゴに手をやると、アゴのジョリジョリが無い。

 俺は20歳を越えたあたりから、急にヒゲが濃くなり、アゴのジョリジョリを触るのが最近のクセだったのだ。


「いや、アゴだけじゃない。お肌もツルツルで本当に10年前の高校生に戻ってる?」

 つまりだ、異世界に召喚されたあの日あの場所に10年前の姿で戻ってきたという事か。

 しかし、恐る恐る胸のネックレスに吊るされたロザリオに手を伸ばすと、ロザリオの硬質でひんやりした感触が返ってくる。

 どうやらロザリオだけは異世界から持って帰ってきたようだ。


「えーっと、10年前の召喚された日に、俺は何をしてたっけ?」

 もはや風化し始めている記憶をたぐり寄せると、懐かしい友達の事が思い出されてきた。


「そうだ、あの日も学校の裏山の公園であいつらとくだらない話をして、家に帰ろうとして異世界転移したんだ」

 ああ、あの何でもない日常に帰ってきたと思うと、たまらなく嬉しさが込み上げてくる。

 そうなると、家に帰る前に、ちょっとだけいつもの集合場所である公園のベンチを見てみたいと思うのは人情だろう。


 俺は今来たであろう道を引き返すと、夕日が沈みかけて薄暗くなった公園のベンチが見えてきた。

 たぶんついさっき(俺の感覚では10年前)まで、あいつらがそこで駄弁っていたと思うと、涙が滲んでくる。


 しかも滲んで見えるベンチの周りには、いつものメンバーである京子、敏夫、隆二の顔が幻のように浮かんで見える。


『グスッ』


 なんだよ、皆んな涙ぐんでいるように見えるのは、俺が泣いてるからか?

 …いや、ちょっと待て。今、鼻を啜るような音が聞こえたぞ?


「皆んなぁ〜、会いたかったよ〜」

 京子が泣きながら両手を広げて歩み寄る。


「「「何でいるのー!」」」

 敏夫と隆二とハモってしまった。


「いやいやいや、おかしいだろ。たぶんさっき別れたばっかりなのに、何で皆んなここにいるの?」

「それを言うなら、セイヤも何でおるんや。しかもちょっと泣いてるようやけど?」

 大阪弁なまりの喋り方をする敏夫が、鋭いツッコミを入れてくる。


「いやぁ、俺は何か気になって帰ってきたと言うか…」


「じゃあ、あたしも…」

「僕も…」

「俺もやな…」

「………」


『ウウウーーー!』


 四人とも目線を合わせないという気まずい雰囲気の中、突然けたたましいサイレンが鳴り響いた。

 このサイレンは消防車のサイレンか。あ〜サイレンの音さえも懐かしい…そうじゃない、火事? どこ?


「あっ、学校が燃えてる」

 京子の指差す方を見ると、確かに学校が尋常じゃないほど燃えてるのが目に入った。


「あれは美術室やら音楽教室とかある方の校舎やな。まだ部活しとった奴らが大勢おるんとちゃうか?」

 隆二に言われて、燃えている校舎にいる人の気配を探ると確かに大勢の人の気配が感じられる。

 こうしちゃいられない。助けを呼んでいる人を目の前にして、勇者は見殺しにはできないのだ。


「えーと、急にお腹痛くなったからちょっとトイレ行って帰るよ。皆んな先に帰ってて。」

 俺はそう言うと、別れのあいさつもそこそこに公園のトイレに駆け込んだ。


 個室のカギをかけてカバンを下ろすと、俺は胸のロザリオに魔力を込める。


『バシュ〜ッ!』


 ロザリオからまばゆい光があふれ出てきて、俺の全身を包んでいく。

 そう、俺の勇者の装備はロザリオの中に隠されていて、俺が魔力を込める事で解放される仕組みとなっているのだ。


 一瞬にして、頭のてっぺんからつま先まで白い鎧に包まれ、腰には聖剣が、背中には聖盾が装備された。

 顔も目の部分がスリットになっているが他は全部隠れていて、この姿を見られても俺とは分かるまい。


「よし行くぞ!」

 俺は一つ気合を入れてトイレの窓から外に飛び出すと、そのまま空を飛んで学校の燃えてる校舎の屋上に着地した。

 どうやら消防車を追い越して到着したらしく、逃げまどう生徒や避難指示を出す教師の声があちこちから聞こえてくる。


 人の気配を探ってみると、屋上への非常扉の向こうに大勢の人の気配がある。

 普段屋上への扉は鍵がかけられているので、火にあおられて逃げてきた人が扉の前に固まっているのだろう。


「フンッ」

『ガコッ!』

 俺は力任せに扉を引くと、鍵も蝶番ちょうつがいも壊れて扉がボコッと取れた。

 ヤバっ! ちょっと力を入れすぎた?

 そう思う間も無く、扉と一緒に女子生徒が倒れ込むように転がり出てきた。

 扉の奥を見ると、大勢の生徒が固まっている。


「皆んな助けにきたぞ!」


「ゴホッ、ゴホッ。扉が開いた…誰?」

「何か変なのいる」


 皆んな勇者の格好の俺を見て固まっている。

 ここは何とかごまかさないと。


「えーと、私は消防署の方から来た者です。皆さんを救助に来ました」

 うん、ウソは言ってない。消防署の者ですはウソだが、消防署の方から来た者なら方角を説明しただけだ。


「ゴホッ、皆んな助けが来たぞー。早く屋上に避難するんだ」

 生徒達の後ろから、どこかの部の顧問の先生らしき人が生徒を誘導している。これ以上この格好について聴かれると困るので助かる。


 俺は「それじゃあ、逃げ遅れた人がいないか探してきます」と言うと、生徒や先生達と入れ替わるように校舎内に突入した。

 後ろの方で「美術室にまだ生徒がいるかも…」という声が聞こえたので、俺は片手を上げて応えておく。


 ちなみに勇者の聖鎧には火耐性があり、この程度の炎などほとんど熱さも感じない。向こうの世界では、この学校を一瞬で焼き尽くすほどの業火の中で戦った経験もある。


 こうして逃げ遅れた生徒達を見つけては屋上に避難させ、最後に逃げ遅れた人は居ないか見て回って屋上に戻ってきてみると、避難した生徒達の代わりに三体の異形の姿が目に入った。


「避難させた生徒達は…? な、何っ!」


 すでに屋上にまで広がってきた炎を背景に、ネコ耳しっぽの獣人の女の影、身長三メートルはあろうゴーレムの影、そして怪しげなオーラを放つエルダーリッチのような骸骨の体を黒いマントで包んだ魔族の影がそこに。


「なっ、お、お前らは誰だ!」


「また一人おかしな格好の奴が現れたな。そう言うお前は誰なんだ?」

 ネコ耳獣人の女が聴いてくる。


「お、俺はこの街の正義を守る勇者だ。お前らこそ誰だ! それにここに避難させた生徒達はどこにやった?」


「ほーう。都合よく生徒達が屋上に集まってたからおかしいと思ってたんだ。安心しな。生徒達はすでに校舎の裏庭に避難させた。なぜかこいつらも一緒に協力してな」

 ネコ耳獣人の女がゴーレムと魔族をにらみつけながら答える。


「どういう事だ? お前達の目的は何だ?」


「目的だぁ? そりゃあ、この街はあたしのナワバリなのさ。そのナワバリで何かあれば群れのリーダーであるあたしが黙っちゃいないって事さ」

 ネコ耳獣人の女がやれやれといった風に答える。


 良く分からんが、どうやらこの街には獣人のリーダーがいたらしい。

 俺が異世界に行く前には知りもしなかったが。


「じゃあ、そっちのデカい方は?」

「…」

 ゴーレムは何も答えない。もしかすると、しゃべれないのかもしれん。


「まぁいい。一番の問題はお前だ。そこの魔族! お前の目的は何だ?」

「俺か? 俺も同じようなもんやな。この街は俺が支配する土地で、ここに住む人間は俺の支配下にあるからな。こんな火事くらいで死んでもらっては困るんや」


「何だとぉ〜? 人間が魔族なんぞに支配されてたまるか!」

「何や? おもしろい、やるんか?」


 やはり、この魔族は危険だ。この世界の魔族が大阪弁だったのは驚きだが、こいつは勇者として見逃すわけにはいかない。

 しかし、この魔族の力量もかなりのものと見た。あちらの世界なら魔将軍クラス以上ではないだろうか。うかつには飛び込めない。


『ウウウーーー』

 校舎の周りに消防車が駆けつけてきて、だんだん周りが騒がしくなってきた。


「ねぇ、早いとこ逃げないと消防署の人が屋上に人影がとか、レスキュー呼べとか言ってるけど」

 ネコ耳獣人の女が睨み合う俺達に忠告してくる。獣人の聴覚はかなり発達しているので消防署の人の声が聞こえたのだろう。

 この屋上にレスキューが飛び込んできては話がややこしくなる。


「仕方がない、勝負はお預けだ。それから、そこの獣人の女とゴーレムも、次に見かけたら必ず正体を暴いてやるからな」

「フンッ」

「…」

「好きにセイ」


 その言葉を最後に、俺達は校舎の屋上から姿を消した。


 俺は学校の裏山の公園に向かって空を飛びながら「くそっ、あんな奴らがこの世界にも居たなんて」と毒付いていると、さっきの連中の気配も一緒についてきているのに気が付いた。


 そして公園のトイレの前で、校舎の屋上の時のように四人が並ぶ。

「くそっ、やっぱり勝負をつけるつもりか?」

「いや、そっちがついて来たんだけど?」

「…」

「お前ら、ここに何の用があるんや?」


 何だ? どうも話がかみ合わない。


『プシュー』

 突然ゴーレムの胸部ハッチが上に開くと、ゴーレムの操縦席らしきところに敏夫が座っていた。


「「「トシオー?」」」

 なぜかネコ耳獣人の女と魔族の奴とハモってしまった。


 敏夫が「もう、そろそろ気付こうよ」と俺達に言うが、いったい何に気付けというのか?


 …あれ? 今こいつらも敏夫の名前を呼ばなかったか?

 ネコ耳獣人の女も魔族の奴も俺と同じように頭を捻っている。


「も、もしかしてキョウコか?」

「そう言うあんたは、セイヤ?」

「とすると、まさかお前はリュウジ?」

「「「ええ〜!!」」」


 そう、そこに居たのは、変わり果てたかつての仲間だった。


 何が何だか分からんが、その日はもう遅いからと一旦久しぶりの家に帰る事とし、詳しい事情はあした学校でとなったのだった。


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