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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無能呼ばわりされた聖女は隣国にて幸せを掴む

作者: 雨奇

設定や書き方は穴があるのであしからずご了承ください。



 光属性の持ち主と判明してから聖女候補として過ごしてきたシルヴィア。神殿に引き取られ鍛錬を繰り返すが、その努力はみのることができずにいた。聖女候補となった当時は候補者の中で一番素質があると見込まれて王子の婚約者となっていた。しかし今では治癒してもわずかに痛みが残ったり、浄化しても効果がすぐに無くなってしまうなど一番の落ちこぼれである。



 そんな私が婚約者であることが気に入らないエドリック王子は誕生パーティーが催された日、婚約破棄を突きつけてきた。そして現在聖女に一番近いと言われているセイラを新たな婚約者として発表した。王はその言葉を是とし、失意の私は呆然と仲睦まじいエドリック王子とセイラを見ることしかできなかった。



 婚約者でなくなってからまわりの態度は一変した。今までも当たりが強かったり、ささいな嫌がらせのようなことはあった。それでも王子の婚約者として従者や護衛など付いて、困るようなことがない生活をしてきた。それが元婚約者となれば衣服は聖女候補か分からない見習いが着るような薄っぺらいものへ変わり、食事は固いパンひとつだけ、部屋は埃だらけの場所へとなった。酷い待遇になっただけならばまだよかったが、罵倒や暴力が加わり辛かった。



 そんな苦しい日々に耐えながらも鍛錬に励み続けていると魔物退治の同行が決まった。どうやら最近瘴気が濃くなり、魔物の出現数が増加しているらしい。王都には魔物が現れることがなかったため、命を下されるまで知らなかった。



 神殿へ来てから貴重な存在として外へ出ることが許されなかった私は久しぶりに外の地を踏む。照らす太陽の光がこんなにも眩しかっただろうか。今まで長く歩くことのなかったせいかすぐに疲れ果てて動けなくなってしまった。ただでさえ今回の討伐で役に立つのか分からないのに、さっそくお荷物となった私に隊員達は辟易しているようだった。



 報告にあった場所へ近づくと確かに禍々しい瘴気が漂っている。討伐隊員達は魔物を退治しながら、私は浄化をしながら目的地まで進んで行った。神殿の生活が苦しく感じていたが、歩き疲れても治癒や浄化を続けなければならないだけでなく、魔物の攻撃を受けることもあり、私はもう満身創痍な状態だった。


 目的地に着くと今までと違い遥かに濃い瘴気が広がっている。風に揺られる木々の音、どこかで鳴いてる鳥の声が響く。嫌な汗が額に浮かんでくる。


 目の前に黒い影が通り過ぎる。目で追うとそこにはキメラがいた。隊員たちは順次キメラへ向かっていくが、俊敏な脚は攻撃を容易くかわし、隊員がひとりまたひとりと簡単に倒れていく。瞬時に全滅の危険を感じた隊長はキメラの脚へ攻撃を当てると撤退と叫んだ。私も重い足を動かしてどうにか走り出す。それでも鍛えられた脚で進んでいく隊員たちはとても速くだんだん距離があいていく。置いていかれたくなくて声をかけたいが苦しくて声が出ずにいると先を走る隊長と目が合った。隊長は私に気づいたはずなのに脚を止めることなく行ってしまった。足がもつれて前に倒れる。


もう駄目だ。死ぬ。


 死を覚悟して目をつぶる。しかし襲いかかるであろう痛みは来るはなかった。恐る恐る目を開くと知らない青年が魔物を倒していた。剣をおさめて私の方へ来るとしゃがんで声をかけてくれた。


「もう大丈夫だ。怪我は·····生命に別状はないが深いな。しかも消耗もひどい。立てるか?」


 血のついてない手の方で手をひかれて立ち上がると青年の顔がとても近い。あまりの美貌に目がくらみ、あろうことかそのまま気を失ってしまった。


 目を覚ますとふかふかのベッドの上だった。ここはどこなのか分からないが今まで生きてきた中で一番気持ちいい布団だ。布団から出ようと起き上がろうとするが身体が痛くて動けなかった。どうやら同じ部屋にいた女性が私の目覚めに気づいてこちらに来た。目が合うとそのまま部屋を出て行ってしまった。すぐに戻ってくる足音が聞こえて目を開くと助けてくれた青年がやって来た。


「目覚めたんだね。よかった。私はイヴ。ここはタリラ国の隣、ガイム国。君の傷はとても酷く置き去りにするなんてできなくて、こちらへ連れて来てしまった。今まで治療して眠っていた。君は?」

 私は喋ろうとしたが喉が乾いていたせいか上手く声がでなかった。

「わ·····しは·····ヴィア。」

 すぐに水差しをくれた。のどが潤って声が出しやすくなった。

「助けていただいてありがとうございます。すぐに発ちますので·····。」

「急ぐことは無い。深い傷だ。ゆっくりしてかまわないからしっかり治そう。」



 ◆


 その頃シルヴィアのいたタリラ国ではシルヴィアの捜索のため討伐隊が出向していた。道を進む討伐隊長はあのキメラを退治できず終わってしまったというのに以前よりも瘴気が薄まっていることに気づく。浄化を司るシルヴィアが生きているのではないかと考えを改め始めていた。しかしシルヴィアの姿はどこにも見つからず、最後に見た場所には彼女が提げていた十字架が落ちており、辺りに大量の血の跡が確認された。上記の報告からシルヴィアは死亡と判断された。


 エルリック王子の父・ルバート王はシルヴィアの死亡と正式にセイラを新たな婚約者に迎えることを発表した。新たな婚約者は候補者の中で一番の力を持っている。シルヴィアの時よりも安泰な未来が来ると誰もが思っていた。まさかシルヴィアを失い、そこから王国は衰退がはじまるとは誰も思いもしなかった。

 タリラ国の辺境にあらわれていた魔物はやがて王都にまで確認されることが多くなった。今までそんなことはなかったのに突然の変化に困惑する王達。王は至急神殿へ浄化要請を出し、討伐隊を増やすが変化がみられず焦りはじめた。


 ◆



 魔物に受けた傷の治療とあたたかな栄養満点のごはんを食べて幸せに浸っていたシルヴィア。タリラ国にいた頃は婚約者であった時すら冷めたごはんに、光魔法の鍛錬に加え、空いた時間には神殿内の掃除や祈りの時間と動いてばかりで休むときをあたえられず疲れきっていた。それが今は安静にするようにと忠告を受ける。ずっと動いていたせいか落ち着かない。与えてもらうばかりで罪悪感が募ったシルヴィアはせめてのものと思い“祈り”をこっそりすることにした。身体の痛みが抜けてくるとようやく庭園の散歩までならいいと許可を受けた。庭園には緑色に艷めく木々が並び、色とりどりの花が咲き誇り、おいしそうに実った実を食べにことり達がいた。


 タリラ国にいた頃にはなかなか見ることの出来なかった美しい光景にシルヴィアは思わずため息がこぼれた。後ろに控えているシルヴィア付きのコマリはまるで初めて見るかのように感動しているシルヴィアの姿に違和感を感じた。4、5歳の少女が木や花に目をキラキラさせるのは納得できるが、目の前にいるのは16、17歳ぐらいの少女である。きっとふつうの過ごし方をしていないのだと薄々思いはじめた。


 シルヴィアが来てから数週間が経った。イヴは珍しく執務室に篭もりっぱなしの日が続いていた。これまでは魔物が頻繁にみられ月の半分は退治に行っていたのにそれがない。平和なことは嬉しいがこれでは身体がなまってしまう。愚痴ていると父から書状が届いた。中を見てイヴの眉間にシワが寄る。



 傷が塞がりすっかり元気になったシルヴィアはイヴに呼ばれて書斎のソファに座っていた。イヴは多くの仕事を抱えているのか療養中に顔を合わせるのは数少なく、いまになってようやく彼をしっかりと見ることができた。倒れた時にも思ったがかなりの美形だ。シルヴィアは熱くなった気がする。


「体調はどうかな?」

「おかげさまでとても元気になりました。ありがとうございます。」

「ヴィアはタリラ国の者だったよね。傷も癒えてきたしそろそろ帰しても大丈夫だと思うんだけど·····。 」

「···どうかしたのですか?」


 いずれ帰ることは分かっていたはずなのに、現実味帯びるとうまく呼吸が出来ない。私ちゃんと笑えてる?声震えてないよね?


「最近は王都まで魔物が現れるようになったみたいで、このまま君を帰してもまた危険なんじゃないかと思って、ね。少し迷っているんだ。」


 魔物が王都まで来た!?私がいた頃にそんな話は聞いたことがない。なんで!?他の聖女候補だっているのにおかしい。


「タリラ国から援助要請がこちらの国に来ていて、私は行かなければならない。私が行くついでに君を送ろうかと思っていたんだが、さっきも言ったように少し心配で。」


 出発は2週間後だから考えておいてと言われ部屋を後にした。幼い頃から何度も言われてきた、働かざる者食うべからず。今の私は何もせずにただ寝て食べて過ごすだけ。イヴは気にしなくていいと言っていたが、やはり迷惑をかけているのは事実だ。まして私はこの国の者でない。━━━━━━━帰ろう。



「本当に彼女を帰すつもりですか?」


 普段無口なコマリが珍しく声をかけてきた。


「元々彼女はこの国の者ではないからね。自分の国へ帰ることに異議を唱えてどうする?」

「貴方もお気づきでしょう。『帰る』と聞いた瞬間に顔が青ざめていました。ここに残すべきです。」

「珍しいな。 他人に無関心な君がそこまで彼女に入れ込む理由はなんだ?」


 コマリは話すか口を閉ざすか悩んだ。今から言うことはあまり人に知られたくない場合もある。嫌われてもいい。彼女に帰ってほしくなかった。


「ヴィアの身体には無数の痣や傷の跡がありました。医師には黙ってもらうように買収してあります。貴方に秘匿したことなら謹んで罰を受けます。彼女が国へ帰っても不幸せが待っているとしか思えません。まして貴方が連れて帰ってきた日はもう死んでいてもおかしくない状態でした。帰してしまってら次こそ死んでしまう気がするのです。」


 イヴが連れて帰ってきたあの日、ヴィアは土や血がこべりついていたので治療後にお風呂へ入れたのは担当となったコマリだった。服を脱がすと青紫色だけでなく黄色の痣や線のように細くなった傷がたくさんみられた。傷だらけの身体は過去の自分を思い出させた。その日からコマリは彼女をただの他人とは思えず、どうにか助けてあげたい気持ちになっていた。自分を地獄から救ってくれた彼に、彼女にも救いの手を差し伸べてもらいたい。


 コンコン。


「はい?」


 扉を開くと先程までお話をしていたイヴ様だった。見上げて見える顔は少し怖くみえるのは気のせいだろうか。


「失礼。」


 イヴは断りの返事を聞かずにシルヴィアの腕を捲った。その腕を見て絶句する。予想はしていたものの痛々しい腕は見るに堪えない気持ちになった。シルヴィアはすぐさま腕を隠す。


「君はここにいるべきだ。」


 先ほど決意した思いを揺らいでしまうような言葉を吐かないで欲しい。


「いえ、私は帰ります。みなさんにこれ以上ご迷惑をかけるわけにはいきません。」

「だからそれは気にしなくていいと言っているだろう。」

「そうも参りません。ただ何もせずいるのは心苦しいのです。」

「それならば仕事を与える。それでいいだろう。」


 シルヴィアは目を大きく開いて固まる。言い返すことはせずに呆然とイヴを見ている。


「もし君を帰して、せっかく繋いだ生命が無くなってしまったら罪悪感が募るのはこちらの方だ。」


 時計の針の音だけが聞こえる。先に静寂を切り裂いたのはシルヴィアだった。


「そのような思いを募る必要はありません。私は帰るべきなのです。私は、私は━━━━━━━━。」


 2週間後、シルヴィアはイヴ率いる援助隊とともにタリラ国へ向かっていた。移動は馬で行くらしく、乗れないシルヴィアはイヴの前に乗せてもらっていた。イヴと言い合ってから仲直りしたわけではなかったため気まずくてしょうがなかった。イヴの馬が一番大きく、2人で乗っても安定するので他の人がいいと言えなかった。


 タリラ国に近づくと確かに魔物が多く見られた。数が多いせいで王都に着く前に体力を消耗してしまいそうだ。泊まるために立ち寄った街は魔物に襲われていたため援助隊の人が戦って倒してくれた。しかし医院は怪我した人でいっぱいになり、大切な人を亡くしたり、壊された街のせいで今までの生活が出来なくなったりして、悲しみの空気が街全体を覆っていた。目的地まで温存しておきたかったシルヴィアは“祈り”だけ行い、その街を後にした。


 道中現れる魔物に臆することなく倒していくイヴの強さはキメラを瞬殺するだけある。彼はとても強かった。休憩や宿泊になるとシルヴィアは怪我した隊員の元へ向かう。表的には看護しているように見えるが、治癒魔法を発動させていた。回数を重ねるに連れて違和感を覚える。シルヴィアの治癒は一部に痛みが残る不完全なものはずだ。しかし目の前の隊員達は全快しているようにみえた。


「どうかしたのか?」

「ここへ来る前はかっこよく聖女だなんて伝えましたが、嘘なんです。出来損ないの聖女候補が本当の私なんです。」


 まわりの元気な隊員たちを見てイヴは言う。


「出来損ないとは思えないくらい、隊員たちは欠けることなくここまで皆無事にいるようにみえるが?」

「私も驚いています。確かに私は候補者の中で中途半端な力しか使えず無能と言われていたんです。」

「シルヴィアを拾った頃はガリガリのボロボロだったからな。身体が健康になって魔法が安定するようになったんじゃないか。身体が資本というだろ?」

「分かりません。でもようやく人の笑顔を守れるようになって嬉しいです。改めて、イヴさま、あの時助けていただいてありがとうございます。」


 それからのシルヴィアは自信を持った影響怪我した隊員を治癒しつつ、手隙になると浄化してイヴ達を援護していった。その姿はまさに戦で輝きを放つ聖女のようにみえて、隊員達の一部からは崇められるようになっていた。


 王都まで鎮静させると魔物との戦いは終焉を迎え、タリラ城へ到着した。タリラ王は援助隊の隊長であるイヴを王座の間に呼んで盛大に感謝していた。王座の間には王と后妃、宰相や大臣の他に元婚約者の王子の他にセイラの姿も見られた。若く淡麗なイヴの姿にうっとりするセイラを見つけて、今まで何をしていたんだと怒りたくなった。


 それよりもイヴの計らいで何故か自分まで王座の間に入ることになり困惑するシルヴィア。下を向き、いくらローブを被って居るとはいえ顔を見られるとすぐにバレるはずだ。


 タリラ王はイヴに助けについての感謝を述べた後、謝礼について話し始めた。今回は急を要するため謝礼について詳しく決まっているわけではなかったらしい。


 イヴは今回の見返りとして一つだけ欲しいと要求する。


「私は聖女を所望します。」


 王はさすがにそれは譲れないと拒否するのに対して、宰相は受け入れる姿勢で対立している。そこへ空気が読めないのかセイラは前に出て鈴のような声を放つ。


「私ならば構いませんわ。イヴ様が助けてくださらなかったら今頃どうなっていたことか·····。」


 私が隣国にいた間にセイラは聖女候補ではなく“聖女”となっていたらしい。庇護欲をそそる可憐な姿はまさに聖女にみえる。



「何言ってるんだ。お前じゃない。私が望んでいるのはシルヴィア・ハースだ。」


 シルヴィアの心臓が大きくはねる。なんだか告白のような台詞に感じて恥ずかしい。


 困惑するタリラ王はシルヴィア・ハースならば快く差し出すことを明言するが彼女は死亡してしまった為、与えられないと説明する。イヴは後ろに控えていたシルヴィアの前へ立つとフードを外した。最初、ボロ雑巾のような女の記憶しか無かったせいか誰もよく分からなかったが、身なりが変わったといえ特徴からある人物の名前が浮かび上がった。そこには死んだと思っていてシルヴィアが美しい女性として現れ、王座の間にいたもの達は驚愕の顔をせずにはいられなかった。



 イヴは跪き、シルヴィアの手に口づけをする。


「王の言質はいただいた。シルヴィア、あなたが好きです。私、イヴァント・ガイムと共にきていただけませんか。」


「イヴァント・ガイム!?」


 まわりがその名を聞いて騒ぎ始める。ガイムといえば隣国の国名だ。それを名に宿しているということは·····。


「え!え?イヴは王子様だったの!?」

「王子といっても四男だし、王太子からかけ離れているからあまり権力は持っていない。実際にタリラ王すら私に気づかないほど王族としての影は薄い。」



 見た目が王子様だと思っていたけど本当に王子様だったなんて。シルヴィアは涙をためながら返事をする。


「ええ、喜んで。」






読んでいただきありがとうございました。



(誤字報告ありがとうございます。訂正しました。)



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 続きが読みたいと思いました。 シルヴィアとイヴの幸せライフが読みたいです。 イヴがセイラに言った、お前じゃねーよ!がちょっとスカッとしました。 [気になる点] シルヴィ…
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