魔物の襲撃
悠里は飛びかかってきた魔物を剣で受け流しながら尻もちを付いたままのリリスを睨むように見つめた。
「リリスも早く!」
「バカ言え。私も手伝う」
リリスは体勢を整えると悠里の隣に並び立ち、細剣を構えた。
目の前の魔物は悠里だけを睨みつけ警戒した様子で身動きを取らない。
「何か策はあるか? 悠里」
「うん。うん。分かった」
悠里は何者かと会話をしているような素振りを見せ、魔物を睨みつけながらリリスに声を掛ける。
「あいつかなり視野が広いみたいだね。俺が囮になるからリリスが背後から大技を決めて欲しい」
「しかしそれではお前も巻き込まれるぞ」
「俺は大丈夫だから」
ふと、リリスが悠里を見ると彼の全身を包むバリアシールドが赤くなっていた。
「お前のバリアシールドも耐久限界じゃないか。私の本気の一撃を受けたらただでは済まんぞ」
「良いから。早く! あいつが俺を標的にしている間に!」
「くっ。分かった」
リリスが悠里のそばを離れた直後、魔物も動いた。
空気を鋭く裂きながら悠里に向かって噛みつこうとする魔物に対して、悠里はぎこちなく攻撃を回避する。しかしギリギリとは言えあの獰猛な魔物の攻撃を一人で回避し続ける悠里はそれだけでそこら辺の生徒よりも実力はあるだろう。
そもそも異界の魔物であるヴィアヌスには大人数で挑むのが定石となっている。奴らは地球の人間とは違い桁外れの身体能力と多種多様な魔法に加え、さらに一定以上の知能もある。
そのためヴィアヌスと戦う戦力である学園都市の《異界世代》はどこの業界でも重宝されるし、常に人手も常に足りない状況だ。
やはり侮れないとリリスは悠里に対して一定の評価を付け、星応力を集中させ始めた。
「一撃で潰す。穿て、業火の槍!」
一方で悠里はかなり危うい状態だった。
突然様々な知識が入ってきた事で今までの常識が覆され、体の動かし方にも変化が生まれていた。
今までが最適化されていなかった訳ではない。悠里にも武術の覚えはあり、間違いなくそれは達人と呼ばれる腕前だった。
しかしノアから受け取った知識は悠里の記憶の奥深くまで入り込み、今まで最適化されていた動きを根底から破壊していた。それでも悠里が今なお生きているのは受け取った知識があまりにも優秀だったからだ。
悠里の知らない効率的な体の動かし方は《異界世代》の為に最適化されたもので体が驚くほど軽い。更に手に入れた効率的な星応力の使い方は神業と呼べるレベルだ。
しかしそれは知識だけ手に入れても真似できるものではない。ノアの知識は悠里の経験記憶にまで及んできたのだ。
(くっ。意識して体を動かすと以前の体の動かし方に引きずられて動きがぎこちなくなる。今は出来るだけ感覚的に体を動かすのが正解かも知れない)
と、悠里は考えながらリリスが一撃で敵を仕留められる様に神装武装を強く握り、いつものようにトロンコアを破壊した。
直後、悠里の頭はパンクした。
効率的な星応力の使い方を会得した悠里にトロンサーバーの反発現象によるエーテル回収と言う技術はあまりにも過負荷だったのだ。
一瞬の混乱の後に悠里は魔物の爪に囚われ地面に押し倒された。直後悠里の体を守っていたバリアシールドが粉々に砕けた。
「悠里!」
遠くから灼熱の槍を握ったリリスの声が聞こえて来る。
「リリス! 殺って!」
「だが、それではお前も串刺しだぞ!」
「良いからやるんだ! 早く」
「くっ……行くぞ! はぁああ!」
リリスが全力の一投を魔物に目掛けて放つ、悠里はタイミングを見計らい魔物の足を掬うとそのまま槍の進行方向に蹴り飛ばした。
そのまま悠里はその場から飛び退く、直後槍に串刺しになった魔物が悲鳴のような声を上げながら悠里の目の前に突き刺さった。
「悠里! 避けろ。爆発するぞ!」
リリスの鋭い声が飛び、悠里は反射的にその場から飛び退く次の瞬間には槍が轟音を上げながら爆発して悠里も地面を何度も転がりながらようやく受け身を取った。
「はぁはぁ。危なかった」
悠里は自らの制服を見て溜息を付く。
新品だった制服は長い事地面に引きずられた後の様にボロボロになっていた。
「ふふん。ノアのおかげで助かったな」
ノアはドヤ顔をしながら宙を揺蕩う。
君のせいで危なかったんだけどね、と言いたい気持ちを堪えながら悠里は爆発跡地を見る。
リリスは相当本気で攻撃をしたのだろう。魔物の姿は跡形も無かった。




