犯人はお前だ
「嘘を付くんじゃねぇ! 目撃者がちゃんといるんだよ! おとなしく白状しろ!」
若い男の声だ。
声の主は気の小さいものなら竦み上がってしまう剣幕で、ビリビリと空気を震わせながら怒鳴っている。
「そうですよ。目撃者はいますし証拠もしっかりとあるんですよ!」
そしてもう一人若い男の声が悠里の耳に届いた。
先程の男と違い随分と冷静な声色で誰かを追い詰めている。
悠里はピリピリとした雰囲気につられ茂みから声のする方を覗いた。
そこには自販機の前のベンチに座っているリリスがいて、彼女を取り囲むように男子生徒二人が立っていた。特に今にもリリスに攻撃を加えてしまいそうな剣幕の生徒はガッチリとした大柄な体躯で、威圧感が強い。そしてそのお付きらしき生徒は痩せ型だがその顔つきには確かな知性を感じる。
「だから私は知らないと言っている。アドミス・オリヴァー。お前の妹が失踪したのは残念な事だ。お前が不安になって誘拐犯がいるのではと疑う気持ちも分かる。だがそれを髪の色が似ているからという理由だけで私のせいにするんじゃない。お前の話ではまともな証拠もないでは無いか」
リリスは苛立たしげに眉を寄せ筋肉隆々なアドミスと呼ばれた筋肉隆々な男子生徒を睨みつけた。
(何か揉め事かな? 失踪とか物騒な単語が聞こえるけど)
悠里は状況を正しく把握するため息を殺し少しだけ彼らの方に近づいた。
すると彼らの話がより鮮明に聞こえてきた。
「証拠ならあるんだよ。犯人が逃走する時、《禁書序列》のデュオ二人が犯人を追い詰めた。しかし犯人は殆ど無傷でそいつらから逃げた。つまり犯人は《禁書序列》の二人から逃げ切るだけの実力があるんだぞ。お前以外にそれができる奴がいるか?」
「ふん。偶然だろう。《禁書序列》の二人組から逃げ切るくらい私でなくてもできる奴はいる」
「犯人は火系統の攻撃を放ち追走から逃れたそうです。更に証言によれば犯人の髪の色はあなたと一致しているそうです」
リリスは堂々とアドミスに対して反論したが、細身の男子生徒がリリスを追い詰めるための情報を言い放った。
聞く限り犯人は『学内屈指の実力を持つ二人からほぼ無傷で逃げ切るだけの実力がある』更に『リリスと同じ系統の攻撃手段を保有している』そして『髪色も一致』するらしい。
確かにリリスの攻撃は破壊力があり、軍で訓練を受けていた悠里をあっさり追い詰めるだけの実力が有るのも確かで、彼らの発言には一定の根拠があるのが伺える。
しかし彼女が悠里に攻撃を放つ直前『曲がったことが大嫌い』と言った。あの時のリリスの目は本物だった事も悠里は知っている。あれが──あの発言が嘘とは思えない。
悠里の感情は置いておいて証言だけを聞く限りどう聞いてもリリスが犯人だろう。それでも悠里は彼女を放おっておくことはできなかった。
「実はな……。一つだけ犯人を見分ける証拠が有るんだぜ」
アドミスが自信満々にリリスに一歩近づいた。
しかしリリスは顔色一つ変えずアドミスを見つめる。
「なんだ? そう言うものがあるならさっさとその証拠を元に犯人を探せ。私に構うだけ時間が無駄だ」
「くはははは。ここまで言っても白を切るのか。いいぞ。だったら証拠を元にお前が犯人か確認してやろう」
アドミスが更に一歩リリスに近づく。
「なんだ。近づくな。それ以上近づいたら、本気で燃やすぞ」
リリスは警戒した様子でアドミスを睨みつける。
しかしアドミスは余裕綽々な様子で更にリリスに近づいた。
「セレン・シャールと言う生徒を知っているか? お前を捕まえようと追いかけていた生徒だが、やつの固有能力に呪印というものがある」
「まさか!」
何かを察したリリスは警戒度を更に高め少し後ずさる──が座っていたベンチに突っかかり盛大にすっ転んでしまった。
「おいおい。随分な怯えようじゃないか。そんなにその服を剥がされて呪印を確認されるのが嫌なのか?」
「当たり前だ! 恋人でもない男に裸を見られるなんて人生に一度で十分だ!」
「おい。レン。そいつを動かないように捕まえろ」
アドミスが後方に立って様子を見ていた細身の生徒に命令をした。




