甲子園に出てみたいね。
是非、最後まで読んで頂いて評価等お願いいたします。
部屋のテレビには、地方の高校野球が映し出された。光り輝く高校球児はまさに青春である。それを見ていた二人の男子高校生は、青春など知らなさそうだ。
「高校生で甲子園に出場したい」
夢を語ったのはテルヨシだ。テレビに釘付けになった漢の目は輝いていた。
「いや我々の高校弱いしムリだろ」
青春など興味なさそうなトシキはバッサリと切り捨てた。
彼らの通う高校は、一回戦敗退が当然の実力だ。そんな夢が叶うはずもない事はわかっている。
「だから今から甲子園常連校に入るためにオーディションの練習しようよ」
「選考基準はオーディションとかじゃないから。この時点で入部不可能だよ」
しかし、テルヨシはこんな否定に負けずオーディションを始めた。
「こんにちは。パワーポイントを作ってきたのでぜひご覧ください」
「パワポじゃなくてプレーを見せろ」
間を置き、呼吸を整えて仕切り直す。練習でも少しばかり緊張感を持って挑んでいる。
パワポ自体は用意されておらず、そこにあるという体で行われるようだ。
そして、オーディションの幕が開けた。
およそ15秒の沈黙。オーディションが始まっているのにも関わらず、お互い何も喋らない。静寂に包まれる部屋に、カラスの元気の良い声が届く。
「何この間は?」
「スライドのアニメーション終わるの待ってんだよ」
「アニメーション付けすぎだろ‼︎この時点で失敗してるわ!」
どのタイミングで喋れば良いか図っているようだが、全く意味のないものだ。
すでにタイミングを見失っていると言った方が正しいのだろうか。
「バットを遠くに飛ばすリキを見てください」
「バット飛ばすなよ。力をリキって読んでるやつを孫悟空以外で初めて見たよ」
さっぱりなことを言ってもオーディションは続く、というより無理矢理続けている。
「ポジションはセンターから左か右です」
「いやどこだよ。もっと詳しく言えよ」
「クォーターバックって言ってんだろうが‼︎」
「言ってねえし、それアメフトだよ‼︎」
「マジメな話をするとセカンドしかやった事がありません」
トシキは強く感心した。
セカンドが出来れば大したものだ。おそらくオールマイティにこなせるだろう。
「なんだ野球やったことあんのかよ」
「いやモンハンの話」
「モンハンかよ!何がマジメな話なんだよ!」
「正確なパスと当たり負けしない体幹が持ち味です」
「やっぱアメフトじゃねえか!何しに来たんだよ」
「甲子園ボウルに出場しに来たんだよ!」
「甲子園ってアメフトの方かよ!」
テルヨシが一旦、静止をかける。彼には何か引っかかるものがあるのだろう。
「お前がさっきから言ってるアメフトって何?」
「アメフト知らないで甲子園ボウル知ってるやつ初めて見たわ。アメリカンフットボールの略ね」
「アメリカンフットボール…?初めて聞いたわ」
そう言われてもピンと来ていない様子だ。
「すごい有名だぞ。お前マジか」
「似てるア〆リ力ソヲッ卜木一ノレなら知ってるけど」
「あしめりちからそをっぼくきいちのれって何⁉︎そっちのほうがマイナーだろ‼︎」
「小学校の頃やったでしょ?クラスのレクリエーションとかで」
「普通やらねえよ!何をするんだよ!」
素朴な疑問だ。この世にア〆リ力ソヲッ卜木一ノレのルールを知っている人間は、そう存在しないだろう。
「ア〆リ力ソヲッ卜木一ノレってどれだけ綺麗に言えるか競うんだよ」
「教室が地獄‼︎ ア〆リ力ソヲッ卜木一ノレが木霊するの気持ち悪いわ‼︎」
テルヨシは手をパーにして言った。何かの数字を暗示している。
「ちなみに俺は15位だった」
「クソ微妙な成績だな!そんな成績で思い出すなよ!」
「そこまでいうなら高校野球で甲子園目指すわ」
「野球未経験のお前には難しいって」
「こう見えても半年くらいは野球やりたいと思ってたんだぜ」
「スタートダッシュ遅れてる!半年て!」
本気でアメフトでの甲子園出場を目指していたのか。
そんなことを思ったトシキである。
「タックルが得意なので乱闘いけます」
「結局アメフトかよ!まだオーディション続いてたの⁉︎」
衝撃の事実が発覚した。ア〆リ力ソヲッ卜木一ノレのくだりは、オーディションでもやるようだ。
「入部した暁には四番でエースをやりたいです」
「うんムリだよ。早く帰れよお前」
大きすぎる夢は、時に人を潰してしまう。自分を客観視することは大事だろう。
「そんなこと言うなよ。だったらプロ目指すわ」
「もっとムリだわ」
読んで頂きありがとうございます。