ハリウッド俳優になりたい人生だった。
ギャグしかないです。
ストーリーもなく1話完結です。
ご飯が温まるのを待つのに読むくらいがちょうどいいです。
短針が『5』を指そうとしている。外は赤く染まっていた。ここは日本。平凡な住宅街にある平凡な家。そこに二人の平凡な男子高校生がいた。
テルヨシが急に立ち上がった。
「トイレ行ってくる」
トシキは適当に返事をする。あぐらをかき、惰性で毎週買い続けている週刊誌を読みながらだ。
二回ほどページをめくったところで部屋の扉が開いた。どうやらテルヨシが帰ってきたようだ。
「こんにちは、トムハンクスです」
テルヨシは開口一番に言った。
テルヨシ=トムハンクスという衝撃の事実がトシキの脳内を襲う。
「どこがだよ」
事実でもなんでもないことに気がつく。
人間そう言われれば、わずかコンマ一秒でも信じてしまうのかもしれない。
「俺全体が」
「いや似てねえよ」
実際似ていないものは仕方がないのだ。
どう主張しても変わらないものはある。
「じゃあお前がトムハンクスでいいよ」
「そんなんでいいのかよ。トムハンクス軽すぎだろ」
こうしてトシキは今日からトムハンクスを背負って生きることになった。
「代わりにジョニーデップになるわ」
「代わりってなんだよ。それも全然似てねえよ」
「だったらジョニーデップもお前にあげるわ」
まさかのプレゼントにトシキも思わず笑みが溢れる。
ジョニーデップも背負うなんて夢にも思っていなかった。
「ジョニーデップも頂けるなんて嬉しいです」
「よかったらウィルスミスも差し上げましょうか?」
「ありがとうございます」
部屋に和やかな空気が広がった。ニコニコと微笑みあう二人。その時間はとても美しいものである。
しかし、トシキの手のひらがそれを許してくれないだろう。
「なわけねえだろアホか。ウィルスミスもらうってなんなんだよ」
テルヨシは腰窓の冊子に肘をつく。
顔は夕焼けに照らされて眩しそうだ。夕日を見ながらそっと語った。
「ハリソンフォードになりたかった」
「なれねえよ。お前はお前だろ」
強烈な否定をテルヨシは肘をつくのをやめて直立した。
真面目な顔をしてトシキを見る。トシキはテルヨシへの警戒を強めた。
「じゃあブラッドピットじゃない人で」
「誰?なんでそんな発言したの?」
テルヨシは「わかった」とその場を制止して言った。
「じゃあもうキアヌリーブスになるわ」
「似てねえよ。それもさっさと寄越せよ」
「キアヌだけは絶対無理」
「なんでだよ。早く寄越せ」
トシキは手を差し出してキアヌの強奪を試みる。
しかし、テルヨシはそれには応えなかった。
「キアヌはばあちゃんの形見なんだよ」
「キアヌ…そうだったのか…。無理言ってごめん」
心からその事情を受け止めるトシキ。少し傲慢だったなと心から反省した。
「しょうがないからリーブスだけやるよ」
「リーブスはいいのかよ。ていうかリーブスってどの部分だよ」
「キアヌリーブスの核と言ってもいい場所だ」
「キアヌ抜け殻じゃねえか。もらえねえよ」
「キアヌリーブス丸ごとやるよ」
トシキは天を仰いで考える。
ここまで俺は色々な者を背負ってきた。なんでもあいつから奪いすぎじゃないか?
こんなことを思い、ついに決意の一言を言い放った。
「お前が次言ったやつはお前のものだ」
「マジで?どうしようか…」
頭を抱えた。これから背負い続ける者。半端な決断はできない。テルヨシを渦巻く葛藤はその時間を永遠とも思わせた。
いざ、決断の時。
「ハリウッドザコシショウで」
「ハリウッド俳優じゃねえのかよ!」
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