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9話

 私は、部屋に戻ると荷物をせっせとまとめ始めた。

 

「全く! 冗談じゃないわよ!」


 すると、彼がやって来た。


「麗香。君の気持ちは変わらないんだね。僕はとても悲しいよ」


 寂しそうな表情をしていた。

 

「メイド喫茶で初めて君の笑顔を見た瞬間、僕は君に心を奪われた」


 出た。

 ナルシスト!!

 私は無視して黙々と荷物をまとめていた。


「そうだ。せっかく君のために用意した最高級の食材をお土産に持って帰るといい。君がいなければ腐らせるだけだ」


 彼はそう言って部屋を出て行った。

 きっと、キッチンに向かったのだろう。

 私は荷物をまとめると、部屋のドアまで行き、部屋をふり返った。


「この素敵な部屋を使う事はなかったわね」


 彼が用意してくれたこの部屋は、私にとって夢のような素敵な部屋だった。

 その部屋を眺めながら少し名残惜しかったが、私は自分の人生をこんなところで無駄にしたくないという気持ちでいっぱいだった。


「さよなら」


 そう言って、部屋を出た。

 そして、この屋敷を出ようとした時だった。

 彼が大きなクーラーボックスを持ってやって来たのである。


「何よ。そのクーラーボッスは?」


「せっかくの食材だ。持って帰るといい」

 

 え? ただでさえ、自分の荷物でいっぱいなのに。

 私は少し呆れたが、せっかくの高級食材。

 やっぱり勿体ない気持ちになった。


「どうやって持って帰れと言うの?」


「麗香。荷物も多いし、それにもう夜も更けている。女性が1人であの森を越えるのは危ない。やはり僕が送って行ったほうがいい」


 心配してくれているのは伝わってきたが、もう彼には関わりたくないと思った。


「大丈夫よ! このくらい平気よ! じゃあね。さよなら」


 私は彼に対して、冷たくそう言って屋敷を出て行った。


「ティート! こっちに来ておくれ」


「キーキー」


「麗香が出て行った。1人であの森を抜けるのは危ない。彼女が森を出るまで側にいてやってくれないか。僕は彼女にわからないように、遠くから見守る事にする」


「キーキー」


 ティートは彼の言う事に返事をして、飛び立っていく。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「あ~。重たい」


 私は思い荷物を持ちながら暗闇の森の中を歩いて行った。


「全く。何で私がこんな思いしなきゃならないのよ! それにしても重たすぎる~」


 重い荷物を一生懸命持ちながら、私はいつしかぜーぜーと息を切らしていた。


「頑張って、この森を抜けなきゃ。それにしても、中々抜け出せないわね。道に迷っちゃったのかしら」


 屋敷を勢いで飛び出して来たが、段々と冷静になってきた私は少し不安を覚え始めた。

 それに、真っ暗な暗闇の中を1人で歩いている事に、徐々に怖いという気持ちが出てきた。


「何だか不気味ね~」


 その時だった。


「キーキー」


 鳴き声が聞こえた。


「え? 何!? ちょっ! ヤダ……」


 私は怖くなって震えが出てきた。


「キーキー!キー!」


「きゃ~~~~~っ! な、何よ! 怖い。怖い。ヤダ~~っ!」


 怖くてたまらなくなってきたその時だった。

 私の目の前にティートがいた。


「あ、ティート……あなただったのね? びっくりさせないでよ」


 最初にコウモリのティートに出会った時、怖さがあった。

 でも今は、暗闇の中を1人で歩いている事のほうが怖さを感じている。

 ティートの姿を見て、なぜか安心感が出てきた。


「ティート。どうして、ここに?」


「キーキー!」


 ティートは私の言った事に鳴き声で反応をするが、私はティートが何を言っているのか? さっぱりわからなかった。

 

「もしかして、心配して来てくれたの? 私、怖くて仕方なかったの。道に迷ってしまったみたいだし……でも、ティートが来てくれて、何だか怖さが無くなってきた。ありがとう。ティート」


「キーキー!」


 やっぱり私の言う事に反応している。

 なんだか元気が出てきた。


「ティート。私、頑張ってこの森から出たいの。それまで一緒にいてくれる?」

 

 相変わらず、ティートはキーキー言っている。


 その時だった。

 暗闇のどこからか声が聞こえてきたのである。


「あら~!? こんなところに、可愛い子猫ちゃんがいるじゃないの うふふ」


「だ、誰!?」


 木の上にいたんだろうか?

 上から女の人が、身軽な感じで飛び降りてきた。

 

「う~ん。なんて甘くていい香りなの? こんな夜更けに1人じゃ危ないわよ。子猫ちゃん」


 甘い香り!?

 私は香水とかつけた事がなかったので、不思議に思った。


「は? 子猫ちゃん? あなたこそ、こんなところで何してたの? それに、私は香水なんてつけてないわよ?」


 よく見ると、その女性は金髪でカールのロング。

 服はというと、私の大好きなゴシックロリータ風の格好をしていた。

 それに超美人。

 私は、重たい荷物を一旦地面に置いた。


「もしかして、あなたもヲタなの? ゴシックロリータが好きなのね。私もそうよ。私、この森を抜け出したいんだけど、中々抜け出せなくて困っていたの」


 そう言っている私に、彼女は静かに近づいて来た。


「よく喋る子猫ちゃんだこと。それに、あなたが何を言っているのか、この私にはわからないわ」


「わからない? だって、あなたのその服どう見てもゴシックロリータよ」

 

 彼女はゴシックロリータの意味がわからない様子だった。

 そして、ティートが急にキーキー鳴きだした。


「どうしたの? ティート」


 ティートはキーキー鳴きながら、彼女の顔に張り付いた。


「ティート!? 何してるの? 駄目よ! そんな事しちゃ!」


 彼女は顔に張り付いたティートを、一生懸命どけようとしていた。


「この、くそコウモリめ!」


 そう言って、ティートを手に掴み取り、地面に投げつけたのだった。

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