7話
彼はモグモグさせながら何か言っている。
「ん! な、き、君は・・・な、何て、事を……」
と言ってトマトを食べ終えた。
「あら?トマトは食べられるのね。メイド喫茶ではトマトジュースを飲んでいたし」
映画とかでも、トマトジュースを飲んでいた吸血鬼はたくさんいた。
しかし、トマトが食べられるなんて。
「トマトだけは大丈夫だ。決して美味いというわけではないが、人間が食べるものの中で唯一食せるものだ」
そんな事どうでもいい。と思ったが、一応聞いてみた。
「人間の血がたくさんストックされているのに、わざわざトマトを食べなくてもいいじゃん」
「君が僕の口の中に押し込んだからだろう?」
確かにそうだが。
私はお腹が空いてきたので。
「もう。邪魔!! 私はお腹が空いてるの。あっちに行っててちょうだい」
彼にそう言うと。
「邪魔だなんて。失敬な! 君が料理するところを見てみたいだけだ」
ああ。うざい! 本当にうざい!
私はお腹が空くと尚更機嫌が悪くなるほうだ。
「あら~。僕ちゃんは1人じゃ寂しいのでちゅか? それは困ったでちゅでね~」
私はわざと赤ちゃん言葉で言ってやった。
「ぼ、僕を子供扱いするんじゃない! 僕は君よりずっと年上だ」
全く。ああ言えば、こう言う。
彼は少しムキになっているようだった。
「これは子供向けの言葉じゃなく、赤ちゃん言葉なんでちゅ~。赤ちゃんでちゅよ。赤ちゃん。残念でちゅね~」
私が嫌味ったらしくそう言うと。
彼は私の顎をしなやかな指でクイっと少し上げ、私を見つめてきたのである。
そして、少しずつ顔を近づけてきた。
「な、何するのよ……」
やっぱりイケメンだわ~。
私は不覚にもうっとりしてしまった。
そして、恥ずかしくて赤面するのであった。
「麗香。あまり私をからかわないでくれ」
彼は真剣な顔でそう言った。
う、イケメンすぎて眩しい!
私は急に恥ずかしくなり
「ちょっ!! 離れてよね!」
そう言って彼を手で思いっきり押して突き放した。
「麗香。この私を突き放さなくてもいいじゃないか。君は今、顔が赤い! どうしたんだい?」
やだ!恥ずかしい。
そう思いながら、私はどうしていいか分からずにいた。
彼は逆に私をからかっているに違いない。
「いいから。あっちに行ってて!!」
「そこまで言うなら仕方がない」
彼はそう言って去って行った。
「ふ~。やっと料理が出来る。お腹空いた~」
私は再び冷蔵庫の中を見ながら何を作ろうか考えていた。
「せっかく高級な肉があるから、ステーキにしようっと。簡単なスープも作って~。あ、ご飯炊かなきゃ」
私は元々料理が大好きだった。
小さい頃からお母さんが料理をするのを見て、お手伝いがしたくて仕方なかった。
そんな私にお手伝いをさせてくれて、料理を教えてくれた。
ん?もしかして…
彼は、私の子供の頃の気持ちと同じだったのかな?
「まさかね~」
でも、彼には家族がいないみたいだし。
だから私が料理をしようとしているところを、まとわりついてたのかしら。
彼は最初から吸血鬼だったのだろうか?
「ま、どうでもいっか」
ん?やっぱ、視線を感じる。
彼はキッチンの隣の部屋から、こっそりとこっちを見ていた。
無視。無視。
一々構ってたら料理が進まないからだ。
私は手早く料理した。
そして料理をテーブルに運び、やっと夕飯を摂る事が出来たのである。
「ん~~!! この肉最高! こんなに柔らかくて口の中でとろける肉なんて初めてだわ!」
すると、彼が近づいてきた。
「そんなに美味しいかい? それは良かった。存分に食事を楽しみたまえ」
ふん! 何が存分に食事を楽しみたまえよ!
ほんと、ゆっくり食事したいのに。
私は無視して黙々と食事を堪能していた。
「この肉は最高級の神戸牛だ。麗香。君は凄く美味しそうに食べるんだね。見ててとても嬉しいよ」
無視。無視……
「そうか。美味しすぎて、食べる事に夢中なんだね。君のために用意して良かったよ」
無視。無視……
「れ、麗香?」
私の怒りは頂点に達していった。
「うるさい!! 食事くらいゆっくりさせてよ! この馬鹿吸血鬼!」
彼はびっくりして。
「それは失礼した。悪かった。だが、そんなに怒鳴らなくてもいいだろう!? それに馬鹿吸血鬼という言い方は辞めたまえ。麗香、食事が終わったら君に頼みたい事がある。君の膝の上で耳かきをして欲しいんだが」
は!? 私の膝の上で耳かきですって!?
恥ずかし気もなくそう言った彼に、こっちが赤面してしまった。
「怒鳴りたくもなるっつ~の!! それに、私の膝の上で耳かき!? この変態!!」
「おやおや、また変態扱いかい!? 君は僕のメイドだ。もっとメイドらしくしたまえ」
は~!? 彼は私が何で怒ってしまったのか?
わかっていない様子だった。
「こういう状況でメイドらしくなんて出来ないわよ! それに私はただのバイトのメイドよ。ずっとメイドらしくなんて出来るわけないじゃない」
そう言うと
「何を言っているんだい? 君はメイドだろう? 秋葉原ではメイドが耳かきをしてくれたんだが……。麗香、君も僕に耳かきをしてくれたまえ」
私はこの瞬間、初めて気づいた。
彼は最初、僕だけのメイドになってくれ! と言った。
私はアキバでメイドをしていたが、あくまでバイトだった。
ここでもバイトの延長みたいなものでメイドを始めた。
彼がいうメイドとは、私が思っているメイドと違うのじゃないかと……