6話
「そうだ。君の食事の事だが、冷蔵庫に人間の食料を入れておいた。好きに料理して食事をするといい。まぁ、君に料理が出来るかどうは知らないが…ふふ」
と、ちょっと笑った。
「な、今、笑ったわね!! 料理くらい朝飯前よ!! 馬鹿にしないでちょうだい!」
私のために食料を用意してくれていた彼。
そういうところに優しさを感じるのだが……
ちょっと小馬鹿にされたような気がして、少しムカついたのであった。
「フン! 見てらっしゃい」
「おやおや、気分を害したのかい? これは失礼した。しかし、君は怒ったり笑ったり、忙しいメイドだ」
彼はそう言いながら、また笑ったのである。
「あははは!」
く~っ!! やっぱ、こいつ憎たらしいわ!
私は迷わず、彼が座っている椅子を蹴ってやった。
「な、君は何でそんなに乱暴なんだい!! ま、そういうところがまた可愛らしいが」
「フン! 変態でナルシストのご主人様。おかわりは、もうよろしいでしょうか?」
かなり嫌味な感じで言い返してやった。
「ああ、もういい! お腹いっぱいだ。麗香、君と一緒にいると楽しいよ。これからの毎日が楽しくなりそうだ。だが、変態呼ばわりは感心できないな」
と言って、ふっ! と笑みを浮かべていた。
やっぱ、ムカつく!!
「そのナルシストぶり、自分で恥ずかしくないの?」
そう聞くと。
「僕のどこがナルシストで恥ずかしいんだい? これが僕自身であり、自然体なのだよ。僕は完璧なんだ」
ああ、こいつ全く自覚してないのね!!
私はそう思った。
「十分ナルシストよ! 聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいにね! ばっかじゃないの!?」
それに自分の事を完璧だなんて。
「ぼ、僕は馬鹿ではない! 君は何を言っているんだい?」
駄目だ! こいつ! 私の言っている事がまるで通じてない。
「はい。はい。これは、これは失礼致しました!」
私はそう言うと、キッチンにある冷蔵庫のほうへ向かった。
冷蔵庫の中を見ると、いろんな食材が入っていた。
新鮮な野菜や果物。
高級そうな肉まで入っていたのである。
「こういうところは、優しさが出てるんだけどな~」
冷蔵庫の中身を見ながら、独り言を言っていた。
「麗香。君のために最高級の食材を用意した。どうだい?満足してくれたかい?」
いつの間にか私の後ろに立って、彼はそう言った。
「ちょっ! ビックリした~! いきなり後ろに立って声をかけないでくれる?」
彼は不思議そうに。
「いきなりではない。君の後をついて来ただけだ」
私の後をついて来た?
少しムキになっていただけなのだが、段々と腹が立ってきた。
「何でついて来るのよ! 屋敷の中でストーカーは辞めてよね!」
私は彼の事を横目でじ~っと見てやった。
「ス、ストーカーとは、な、何事だ! 僕は君の喜ぶ顔が見たかっただけだ」
恥ずかしそうに、彼はそう言った。
私の喜ぶ顔!?
マジで!?
ああ、そうだったのね。
彼の行動や言動はムカツク事が多いが、接し方がヘタなだけでなのかもしれない。
「悪かったわ。私のために、こんなにたくさんの食料ありがとう」
私は直に彼に向かって、そう言った。
彼は満足そうだった。
「君が喜んでくれて嬉しいよ。僕に感謝したまえ」
は? 感謝!?
「全く。一言多いのよ!!」
彼の足を蹴ってやった。
「痛っ! また乱暴な事を…痛いじゃないか」
「あら、私のこういうところが好きなんじゃなかったの? 本当は嬉しいくせに!」
そう言うと、彼の顔は真っ赤になっていった。
「す、好きだなんて、そ、そんな事…私は言ってはいない」
「ふ~ん。バレバレなんですけど~!!」
彼はまだ恥ずかしそうにしている。
彼のナルシストぶりは自覚がなく、恥ずかしい気持ちがないのに対して、好きだとか、惚れてると言う言葉には恥ずかしがるんだなと思った。
「さてと。私は自分の夕飯の支度をするから、ご主人様はくつろいでいて下さい」
そう言ったのだが。
「麗香、何を作るんだい? 食材は何を使うのかね? 君は何が好きなんだ? 肉か? 野菜か? それとも……」
しつこく聞いてきた。
「うるさい!! 全く!! しつこいにも程があるわ!!」
まだ聞いてくる。
「料理は得意なのかい? 料理するところを見てていいかい?」
質問攻めにしてくる彼に、我慢出来なくなっていった。
私は彼に向かって、冷蔵庫の中にあったトマトを口の中に押し込んでやった。