4話
次の日、学校が終わると、約束通り彼が近くの公園で待っていた。
相変わらず黒服を着ている。
まるで恋人と待ち合わせをしているような雰囲気だった。
「お待たせ~」
私が彼のほうへ走って行くと、私の荷物をさっと持ちあげて持ってくれた。
そのさり気ない優しさに、少し感動すら覚えた。
「麗香、夕べは眠れたかい? ご両親にはちゃんと納得してもらえたのか?」
やはり、本当は紳士で優しい人なのかもしれない。
散々変態呼ばわりしたけど、気づかいの出来る人だと思ったからだ。
「ええ、大丈夫よ」
「さぁ、僕の屋敷へ行こう! 今日から麗香は僕だけのメイドだ」
しかし、私は彼のメイドとして働くにしては、メイド扱いされていない事に気付いた。
昨日は送ってくれたし、今日は迎えに来てくれた。
荷物も持ってくれている。
きっと、屋敷に行ってからメイドとして扱うのだろう。
「わかってますって」
しばらく歩いてから森のほうへ近づくと、彼はまた私を抱きかかえ飛び上がった。
彼の紳士的なところや優しさに気付いた私は、昨日抱きかかえられた時と違って、ドキドキしていた。
そして、また木と木を飛び降りして屋敷へと向かったのだった。
昨日は屋敷から帰る時、薄暗かったし、急いでいた。
あまりはっきりと見渡せなかったが、外国にあるような素敵な屋敷だった。
「ようこそ、麗香。まずは君の部屋へ案内する。僕について来てくれたまえ」
私はエントランスから2階に案内され、1つの部屋へ通された。
とても広い部屋で、ベッドはダブル。
しかもお姫様カーテンまで付いていた。
お洒落で高級そうな小さなテーブルセットまでも付いている。
「素敵な部屋ね~。こういう部屋、憧れてたのよね」
ため息が出る程の素敵な部屋だった。
「気に入ってくれたかい!」
嬉しそうにしている私を見て、彼も嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「荷物の整理がついたら、これに着替えるといい」
彼は用意していたメイド服を私に渡して部屋から出て行った。
「さぁ、これから彼はご主人様よ! メイドとして、アキバでバイトをして来たプライドを見せてやるわ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
メイド服に着替えた私は部屋を出ると……
「キーキー!」
何やら何かが飛んで来た。
その何かが私の肩の上に乗っかったのだ。
鳥か何かだと思い、肩のほうを見ると……
「きゃ~~~~~っ!!」
私は思わず叫び声をあげていた!
それはコウモリだったからだ!!
「一体、どうしたんだい!」
彼が走ってやって来た。
「コ、コウモリ……」
彼はホッとした様子で
「この子は僕の友達。名はティート。ティートという名の由来は“守護者”という意味でもある。怖がる事はない。いつも僕の事を見守っていてくれて、とても利口で優しい子なんだ」
そうは言われても怖いものは怖い。
吸血鬼にコウモリはつき物だが、いきなり現れたし、初めてコウモリを見た。
コウモリのティートは彼の肩の上でキーキー言っている。
「そうか。わかった。伝えるよ」
どうやらティートと話をしているらしい。
「もしかして、その子と話せるの?」
「ああ、どうやら麗香の事が気に入ったらしい。そう伝えてくれ。と言っている」
コウモリに気に入られるなんて、そんな~。
私は怖い気持ちでいっぱいだったが、ここに住むにはティートに慣れなくてはならない。
そう思い、恐る恐るティートに向かって話しかけてみた。
「あ、あの……ティート。よろしくね」
「キーキー」
どうやら、私の言葉に反応したらしい。
「ティートもよろしく。と言っている。良かったな! ティート」
彼はそう言うとティートを指の上の乗せ、羽ばたかせた。
そして、リビング、キッチンといろんな部屋を見て回り、どこに何があるかを教わった。
「さてと! そろそろ夕食の支度をしてくれないか」
夕食!? 吸血鬼の夕食って……
「こっちに来てくれたまえ」
私は地下に連れて行かれた。
そこにはたくさんのワインらしきものが並んでいた。
「そうだな。今夜はこれにしよう」
そう言ってそのワインらしきものを私に渡した。
「キッチンの棚にワイングラスがある。どれでもいい。それを持ってテーブルに置いてくれないか」
「はい。かしこまりました」
私はキッチンに行くと適当にワイングラスを手に取り、大きくて広いテーブルの上に置いた。
そしてワインらしきものをグラスに注いだのである。
「ご主人様」
「ん~いいね~!! 麗香にご主人様と呼ばれて嬉しいよ」
また始まった!! と思いつつ、どうしても気になる事があった。
「麗香、食事の前に例のあれをやってくれないか」
「ご主人様! その前に、お聞きしたい事があるんですけど……」
私は思い切って聞いてみる事にした。
「ん? 何だい?」
「吸血鬼の食事ってワインですか!? あ、そうそう!! メイド喫茶ではいつもトマトジュースを飲んでいましたよね?」
「麗香、これはワインではない。人間の血だ」