2話
「な、何をするのだ!! この僕の美しい顔に…」
は~~。
私は心の中でため息をついていた。
吸血鬼だのご主人様と呼べだの。
しかも、僕にだけ萌え萌えキュンキュンしてくれだの……
それに超ナルシスト。
確かに超イケメンだけど……
「やっぱ変態だわ」
私がそうつぶやくと
「じゃあ、君の血を少し吸わせてもらおうか。そうしたら信じるだろう。何も心配はいらないさ! 君の血を全部吸ってしまったら、君は吸血鬼になってしまう。僕は人間のメイドが欲しいだけさ」
「ちょっ! 待った。わかった。わかったから。吸血鬼だという事は信じてやるわ。でも、昼間に吸血鬼は外に出られないんじゃないの? つ~か、私は家に帰りたいの!」
「僕はもう千年以上、吸血鬼として生きている。そんなやわじゃないさ! 最上級の吸血鬼なのさ」
何が最上級よ。まったく。
そうだ! ここはちょっと一芝居してみるか。
私はふと思いついた事を実行してみた。
変態吸血鬼の顔をじ~っと見てから…
「うわ~ん! だって家族が…お父さんやお母さんが心配するもの。ヒック・・・う、うわ~ん」
私は泣きまねをして見せた。
この変態吸血鬼だけのメイドになるなんて、まっぴらごめんだもの。
「芝居はやめたまえ」
見透かされていた。
彼はまたもや憎たらしくも、ふっと笑みをこぼしている。
私は思わず…
「チッ!!」
そう言っていた。
「どうして私なの? 他にもメイドで働いている人はたくさんいるじゃないの!」
本当にその通りだ。
何で私なのか?
どうしてこんな事になってしまったのか……
彼は窓の外を眺めながら話し始めた。
ま~たナルシストぶりを出すつもりね‥‥‥
「気高き吸血鬼にメイドはつきものなのさ! 今までもたくさんのメイドが僕に仕えてきた。ほとんどが僕と同じ吸血鬼だった。しかし、1人立ちしてしまったものもいれば、人間を好きになり離れていくものもいた」
彼はやれやれ。といった表情でこめかみに指を当てつつ、話を続けた。
「だが……今の時代はどうだい!? 秋葉原に行けば、たくさんのメイドがより取り見取り! そんな中、君のいるメイド喫茶に行った時、僕は君の笑顔と可愛らしい萌え萌えキュンキュン! ハート! に一瞬で心を奪われてしまったのだ。こんな気持ちは初めてだったよ」
ふ~ん! という感じで私は話を聞いていた。
つ~か、退屈で私からしたらどうでもいい話だった。
「要するに~。私に一目ぼれしたってわけね!」
こんなのに惚れられてしまって、厄介な事に巻き込まれて正直こいつめんどくさっ!! と思った。
「な、何を馬鹿な!! 一目ぼれだなんて、僕がするはずがない」
急に照れだして、今までのナルシストぶりが台無しになっていた。
「そういうのを一目ぼれって言うのよ! 悪いけど他を当たってちょうだい。変態吸血鬼に付き合ってる暇はないの。私は家に帰らせてもらうわ」
私はそう言って部屋を出ようとした。
その姿を見て彼は慌ててつつ――
「待ちたまえ! そこまで言うなら、ただでとは言わない。君の願いを1つ叶えてあげよう! この僕に出来ない事はない。何でもいいぞ。言ってみたまえ」
誇らしげに彼は言っていた。
願い事ね~。
急に言われても、そんな簡単に決められるわけがない。
何でもって事はどんな願い事もって事よね。
う~ん。すぐには思い浮かばないわ~。
でも、こういう機会は中々あるわけじゃない。
「ねえ、1つ聞いていい? 仮に私がここに住み込みでバイトするとしたら、家族に会う事は? 学校は?」
「それは勿論、自由に会っていいし学校も行くがいい。だが、君にはここに住んでもらって僕のメイドになって欲しい。そして…」
彼が話をしている時に、次に話す事をわかっていた私は、彼の言葉を遮る。
「はい。はい。わかったわ!! ここにいて萌え萌えキュンキュンしてあげるわよ! でも、今すぐ願い事を決める事は出来ないから考えながらでいい? それと、今のバイト辞めないといけないからバイト代は請求するわよ」
彼は嬉しそうに微笑んでいた。
「それでいい。願い事が決まったら、いつでも言ってくれたまえ!」
「私の名まえは華山 麗香よろしく。ところであなたの名前は?」
「僕の今の名は テオドール・フリットウィック。よろしく! さぁ、麗香、僕の事をご主人様と呼んでくれたまえ」
テオドール・フリットウィック……
いきなりご主人様と呼べと?
それよりとびっきりの願い事を考えなくっちゃね!
「はい。ご主人様」
私はちょっとぶっきらぼうに言ってみた。
バイト以外で言う言葉ではなかったので少し照れ臭かったが、バイト代も出る事だし、まぁいっか!
彼はというと、凄く嬉しそうな顔をしていた。
「ああ、なんという素晴らしい響きだ! しかし、いつものように笑顔で言ってもらいたいものだな」
感動しているわりには、笑顔まで注文する。
私は何だかムカついてきたので、1発殴ってやった。