12話
「麗香…その……君が聞いてきたからそれに答えただけだ……」
彼は恥ずかしそうにしている。
確かに私が聞いた事に答えただけだ。
しかし、あんな恥ずかしい事を言われるなんて思ってもみなかった。
「悪かったわね!」
私はそう言うと食事を黙々と摂り始めた。
「僕が悪かったよ。女性に対しての配慮が足りなかった……麗香。許しておくれ」
彼は申し訳なさそうに謝ってきたのであった。
その姿を見た私は、自分も悪かったという気持ちになったのである。
「もう、この話はおしまい。今度またあんな恥ずかしい事を言ったら、わかってるわよね~」
私はフォークを見せつけた。
今にも投げんばかりの態度で……
「次はない。君はここを出て行くんだろう?」
彼にそう言われ、今更のように思い出したのだった。
「そ、そうだったわね」
「寂しくなる。君といた時間は短かったが、とても楽しかったよ。ありがとう。麗香」
私もどこか寂しい気持ちだった。
それを隠すかのように私は口を開いた。
「さあ、朝食が終わったら学校に送ってね。荷物はあなたの言う通り、家の近くに取りにいくわ」
「ああ、わかった」
私は何とも言えない気持ちでいっぱいだった。
だが、どうしようもない事だと自分に心の中で言い聞かせたのである。
そして、朝食を済ませ屋敷を出た時、ティートが飛んで来た。
「キーキー! キー!」
「ティート。ここでお別れなの。元気でね」
ティートは私の言った事に返事をすようにまた鳴き始めたのであった。
「キーキー!」
「ティート。さようなら」
そして、彼に学校まで送ってもらった。
「ありがとう。じゃあ、後で家の近くで」
私はそう言うと学校に向かった。
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学校が終わり家の近くまで行くと、彼が荷物を持って待っていた。
「荷物。ありがとう。これでお別れね……」
私がそう言うと、彼は相変わらず寂しそうな顔をしている。
「ああ」
私も寂しい気持ちでいっぱいだったが、それを隠すように彼にお別れを言ったのだった。
「さよなら。ご主人様!」
私は重い荷物を持って、家まで走って帰ったのだった。
そして、ふり返らなかった。
何だか胸が切なくて痛い。
こんな気持ちは初めてだった。
「ただいま……」
お母さんが出迎えてくれた。
「あら、麗香お帰りなさい。荷物持ってどうしたの? お友達は大丈夫なの? けんかでもしたの?」
心配して聞いてきたお母さんだったが、何も答えたくなかった私は……
「何でもないの! あ、それからこれお土産……」
クーラーボッスをお母さんに渡し、2階の自分の部屋へ戻ったのだった。
これでいいのよ。
仕方無いもの……
相手は吸血鬼。忠誠を誓うなんて出来ない……
私は自分の人生を歩まないと……
ベッドに横たわると、大きなため息をついていた。
明日から、普通の生活に戻ろう……
またメイド喫茶でバイトしようかな……
いろいろ考えてるうちに寝てしまったのだった。
「麗香? 晩御飯の準備ができたわよ!」
1階にいるお母さんの声で目が覚めた。
「今行く~!」
私はそう答え、リビングに向かったのだった。
お母さんは何も聞かなかった。
今の私は何も話したくなかったから、有り難かった。
そして、何事もなかったようにお母さんの手料理を食べ始めた。
「やっぱ、お母さんの手料理はおいしいわ」
「そんな事言っても何も出ないわよ」
そう言って微笑んでいた。
「それより、ご飯食べたらお風呂にしなさい」
「うん。そうする」
私はそう答えると、食事を終わってからお風呂に入ったのだった。
家に帰ってから、あいつの顔が頭から離れなかった。
「あ~もう!! 何であいつの事が頭から離れないのよ! 私のばか!」
私は、あいつの事がいつの間にか好きになっていた事に気付いたのだった。
「まさか、こういう気持ちになるなんて……。寂しいよ…あいつ、どうしてるかな?」
私は湯船に浸かりながら彼の事を考えていた。
「しっかりしろ! 私!」
お風呂から上がると部屋に戻った。
そして、髪を乾かしベッドに入った。
なんだか眠れなかった。
これが恋っていうのね。
私にとって初恋だった。
恋というものが、こんなにも切ないなんて……
初めての恋に戸惑いが隠せなかった。
「あ~!! 眠れない! 明日学校だっていうのに! あいつの馬鹿!!」
私は、いつも枕元に置いてあるアニメの抱き枕に向かって…
「馬鹿、馬鹿、馬鹿~!!」
そう言いながら、パンチをしたのだった。