11話
何か……聞こえてくる……
「う、う~ん……もう少し寝かせて…あと5分……」
私は朝が弱いほうだ。
「キーキー!キー!」
「う、ん、何!?」
私はその聞きなれた鳴き声に目が覚めた。
ティートが元気そうに、私に向かってキーキー言っていた。
「ティート! 元気になったのね! 良かった。本当に良かった」
ティートは私の肩の上に乗った。
「私ってば、いつの間にか寝ちゃったのね。ごめんねティート…」
「夕べはいろいろあったから、麗香も疲れていたんだろう。ティートはもう大丈夫だ。安心したまえ」
「良かった。人間の血が効いたのね」
ん?そう言えば、彼もそばにいたはず……
「あ~~~~~~っ!! もしかして、私の寝顔を見たわね?」
急に恥ずかしくなった。
「見ていない」
「嘘言わないでよ! 僕もティートの側にいるって言ってたじゃないの!」
「い、いや、見ていない」
彼はそう言っていたが、側にいたから絶対に見たに違いない。
それに、彼は少し動揺しているようだった。
「見たでしょ?」
「み、見ていない」
私は彼の顔をじ~~~っと見てやった。
「見たわね!? 正直に言いなさい!」
「あ、あ~。少しだけ……」
彼は少し照れくさそうに、そう言ったのである。
その言葉に私は思いっきり赤面したのであった。
「やっぱり見たのね。見てないって嘘を言おうとしたわね~~~っ!!」
私は恥ずかしさでいっぱいになり、彼の頬を思いっきり叩いてやった。
「い、痛いじゃないか。君が寝てしまったから、思わず……」
彼は急に恥ずかしくなったのか、横を見ながら話しを逸らし始めた。
「そ、それより麗香、学校に行かないと……」
私はその言葉に、はっ!となり、慌てだした。
「え? 今何時?」
「まだ6時半だ。ゆっくり朝食を摂ってから行くがいいさ。僕が送っていく。荷物は君が学校が終わる頃に家の近くまで持って行くから、取りに来たまえ」
あ~。そうだった。
私はこの屋敷を出て行くんだった……
その事をすっかり忘れていた。
なんだか、少しだけ切ないような……悲しいような…
何だろう?
この気持ち……
「とりあえず、朝食の準備をするわ。あなたもお腹空いてるんじゃない?」
「そうだな。朝食にしよう」
彼は笑顔でそう言った。
私はキッチンに向かい、ハムエッグと簡単なサラダを作った。
そして、オレンジジュース。
食パンを焼き、テーブルの上に並べたのだった。
「麗香。朝食の準備が出来たようだね。一緒に朝食を摂るとしよう」
彼は地下から持ってきた血をワイングラスに注ごうとしていた。
「ちょっと待って」
私は彼の側に行った。
「貸して?」
血の入ったワインボトルに向かってを差し伸べた。
「あ、ああ、どうしたんだい?」
私は彼からワインボトルを受け取り、血を注いだのだった。
「麗香?」
「いいから。いいから。昨日は助けてくれてありがとう。お礼よ」
私はそう言うと、ワイングラスに入った血に向かって…
「萌え萌えキュンキュン!もっと、も~っと美味しくな~れ!」
彼は私の行動に驚いた様子だったが、嬉しそうな顔をしていた。
「麗香。ありがとう。頂くよ」
私は自分の朝食を置いた席に戻った。
なんだか照れ臭かったが、彼が喜ぶ事をしてあげたい。と思ったのである。
「頂きま~す! あ、そう言えば、夕べあの女が変な事を言ってたのよね~」
私は急に夕べの事で不思議に思った事を彼に話し始めた。
「変な事? 何だい?」
「うん。私、香水とかつけた事ないのに、甘くていい香りって」
そう言うと、彼は思わずブハッ!! と血を吹き出したのだった。
「そ、それはだな…その、あれだ……」
彼が急に血を吐きだしたのを見て、私は思わず側に駆け寄った。
「何やってるのよ~! 全く! あ~あ、服に血が付いちゃったじゃないの~」
私はテーブルの上に置かれていたテーブルナプキンで、服に付いた血を拭きながら、彼に話し始めた。
「ねえ、私って、甘い香りがする?」
どう考えても、私は今までそんな事言われた事なんてなかったし不思議だった。
「あ、ああ、君は確かに甘くていい香りがする」
「ん~!? そうかな? 自分ではわからないんだよね~。それにそんな事、生まれて初めて言われたし」
彼は私の話を聞きながら、話始めた。
「そ、それは君自身にはわからない。吸血鬼だけがわかる匂いだ」
「あ、そういう事。人間の血の匂いの事だったのね。血の匂いがわかるんだ~。やっぱ、吸血鬼だからなのね」
そう言った瞬間だった。
「いや、すべての人間が甘い香りがするわけではない。……その、麗香が……処女だからだ…」
彼の言葉に私は一瞬固まった。
そして、無表情で聞いたのである。
「今、何て言った!?」
「いや、その……処女の娘は甘い香りがする……」
私は凄く恥ずかしくてたまらなくなり、それと同時に彼の発言に段々と腹が立ってきたのである。
そして、ランチ用トレイを持って来て、彼の頭を重いっきっり叩いたのだった。