1話
私、華山 麗香は高校2年生。
髪は腰まである黒髪のロングで、前髪ぱっつんお姫様カット。
普段はゴシックロリータの服が主流である。
超ヲタクで、ゲームやアニメが大好きな女の子だ。
学校が終わったら、アキバのメイド喫茶でバイトをしている。
ヲタクとしてアキバは聖地であり、そこで働くことは優越感をも覚える程だ。
メイド喫茶でメイド服を着て、楽しくバイトをする日々を送っていた。
私がバイトの時に必ず来る客がいた。
歳は私より上で、20代前半といったところだろうか……
いつも上から下まで黒服を着ていて、背が高くどこか気品溢れる客だった。
何故かいつもトマトジュースを注文している。
それに超イケメンである。
彼もまたヲタクなのだろうと私は思っていた。
ある日、バイトが終わり外に出ると、いつも黒服を着ている客が壁に背をもたれて立っていた。
誰かと待ち合わせでもしているのだろうかと思い、声をかけた。
「あら? お客様、誰かと待ち合わせですか?」
「いや、君を待っていたのだ」
え? 私を? もしかして告白~~~っ! 絶対に告白だわ!
超イケメンな彼にそう言われ、私はちょっと有頂天になってしまった。
でもここは気づかないふりをしておかないと。
「私に何か用ですか?」
「僕と一緒に来てもらおう」
そう言われ、いきなり壁に押し付けられ壁ドンをくらってしまった。
「ちょっ! いきなり、なんですか!?」
生まれて初めての壁ドンに、私は顔が真っ赤になるほど熱くなっていた。
近くに彼の顔が……
イケメン過ぎてうっとりするほどまぶしかった。
すると、彼が静かにこう言ったのである。
「僕の目を見るのだ」
そう言って私を見つめだした。
きゃ~~~! どうしよう……
そう思いながらも、彼の目を見てしまった。
すると急に眠くなり……
「え? な、何? な、なんだ、か、き、急に……」
だんだんと意識が遠のき、眠ってしまったであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
気がつくと、知らない部屋のベッドに寝かせられていた。
とても豪華な部屋だった。
いかにも金持ちそうな部屋。
「ん? ここは…」
「気がついようだね」
彼が私の寝ているベッドの横で、椅子に座っていた。
私はビックリしてベッドから飛び起きた。
「きゃ~~~っ!! ちょっ!どういう事よ! しかもベッドに!! 私に何かしたわね?」
彼はふっと笑みを浮かべた。
「安心したまえ。何もしてはいないさ。君には僕だけのメイドになってもらいたい。僕の事はご主人様と呼ぶのだ。そして、この僕だけに萌え萌えキュンキュンをするのだ」
何を言っているのかしばらくわからなかった。
え? ご主人様!? 萌え萌えキュンキュンですって!?
「は~っ!? 何それ! あなた変態ね! 私は帰らせてもらうわ!」
「な! 何を言う! 僕は変態ではない! 気高き吸血鬼だ。この僕に向かって変態とは何事だ!」
気高き吸血鬼!? 言っている事は誰が聞いても変態な発言だ。
「何ですって!? だって変態じゃん。ご主人様と呼べとか、僕にだけに萌え萌えキュンキュンするのだ! とか、真顔でそういう事を言うこと自体、変態じゃないの!」
何!? こいつ!!
「ばっかじゃないの! それに吸血鬼なんているわけないじゃん。私を帰らせてちょうだい」
超イケメンだと思って、告白されると一瞬でも思ってしまった自分が馬鹿だった。
私はこの変態に連れ去られたのだと、ようやく気づいた。
「全く。口数の減らないメイドさんだ。僕は正真正銘、吸血鬼。しかもクールで超イケメン! さあ、僕だけのメイド。僕のためだけに言うのだ」
またふっと笑みを浮かべ、決まった! と言わんばかりにこちらを見ている。
「何かっこつけてんのよ! このナルシルト!! 私をこんなところにさらって来ておいて! だ~か~ら~! 吸血鬼なんているわけないって言ってるじゃないの! 何訳の分からない事を言ってるのよ! じゃあ証拠を見せなさいよ。本当に吸血鬼なのか」
彼は私に近づき口を開け、どうだ! といわんばかりに牙を見せつけた。
「どうせ作り物でしょ? そんなのいくらだって売ってるわよ! 変態! もしかして、いつも黒い服を着てたのは吸血鬼のコスプレのつもりだったの? それならマントくらいつけなさいよ!!」
彼は目がキョトンとしていた。
「コスプレとはなんだい? 今の時代、マントをつけている吸血鬼なんていないさ! あははははは! それに変態呼ばわりはやめてくれないか」
は!? 私は彼が笑うのを見て腹が立ってきたのであった。
「何のんきに笑ってんのよ! 超ムカつくんだけど!! コスプレを知らないの? 嘘でしょ!? 今時コスプレを知らない人なんていないわよ! 馬鹿なの?」
「君が何を言っているのか、この僕にはわからないが僕は本当に吸血鬼だ。さっき僕の目を見て眠ってしまったじゃないか。それでも嘘だと思うのかね」
あ、そうだ。私はあの時……こいつの目を見た瞬間……。
まさか、本当に吸血鬼なの?
吸血鬼なんて、本や映画の中でしか見た事なかった。
だけど、確かにあの瞬間、急に気が遠くなったのを覚えている。
「さぁ、ご主人様と呼んでくれたまえ。そして、僕のためだけに萌え萌え…」
そう言っている彼に向かって、私は思いっきり顔を手のひらで叩いてやった。