無口な彼女3
というわけで、僕と小鈴は事務所のすぐ近くにある商店街、アメ横に来ていた。
「ん」
手書きの買い物リストを片手に小鈴が先導してくれる。
小さな女の子に連れられてアメ横を進んでいくと、服屋やゲームセンターに混じって魚屋も肉屋も八百屋も並んでいるのがわかった。
中には香辛料の専門店といったお店まである。
なるほど、ここなら仕入れに困ることはないだろう。
秋穂さんの喫茶店、かなり立地がいいのでは?
「……ん」
そんなことを考えていると、小鈴がある一点を指さした。
八百屋だ。まずはそこで買い物をするのだろう。
二人して商店に近づくと、店先に立っていたおばちゃんが声をあげる。
「いらっしゃい、いらっしゃ――あら、小鈴ちゃんじゃない!」
営業スマイルから一転、孫でもかわいがるような笑顔を浮かべる。
どうやら知り合いらしい。
いや、考えてみれば当然か。
仕入れということは、ほぼ毎日来ていることになる。顔見知りになっていないほうがおかしい。
小鈴はおばちゃんに一礼すると、持ってきたリストを手渡す。
「おや、今日はずいぶんと買い込むね。持てるかい? なんならお店まで届けて……」
と言ったところで、おばちゃんの視線が僕を捉えた。
「見ない顔だね」
「あ、どうも……」
軽く頭を下げる。
なんと名乗ったものだろうか?
さすがに「神様です」とは言えない。
となると、僕を表す適切な表現はなんだろう?
そんなことを悩んでいると、おばちゃんの方が何かに気づいたように、にんまりと笑った。
「あぁ、なるほどなるほど。小鈴ちゃんの彼氏かー」
「なんでそうなった!?」
どこを見て判断したのか、さっぱり理解できない。
戸惑う僕に、なぜかおばちゃんは生暖かい視線を向けてくる。
「大丈夫だよ。今時は歳の差なんて関係ないから」
「いや……」
そういうことではない。
「んっっ!」
小鈴も、誤解であると主張するように両手を首を左右に振る。
「いいよ、いいよ。恥ずかしがらなくたって。あたしと小鈴ちゃんの仲じゃないか」
ダメだ、まったく話が通じない。
結局、ここでは誤解を解くことができなかった。
そして、これは一度だけでは終わらなかった。
肉屋に魚屋、果物店と次々にお店を巡っていったが、どこでも同じことを言われた。
「小鈴ちゃん、ついに彼氏かい?」
これに僕が言葉で、小鈴が身振りで否定するものの、誰にも通じない。
「いやー、めでたい! これ持っていきな」
と続けて、何かしらオマケをつけてくれた。
結果、荷物持ちとしての僕の仕事が増えることになったわけだが。
そうして事務所の下にある喫茶店に帰り着く頃には、僕の両手にのしかかる重量は人間ひとり分くらいにまでなっていた。
「ようやく、着いた……っ!」
荷物をまとめてテーブルに置いて、やっと一息つく。
「……ん」
荷運びを終えた僕に、小鈴は申し訳なさそうに頭を下げる。
「あぁ、いや気にしなくていいよ。僕は人より力もあるし、このくらいは」
「んっ」
否定するように首が降られた。
別のことを謝っているらしい。となると、考えられるのは一つか。
「彼氏と間違われたこと? 大丈夫だよ。……まぁこの街の人が話を聞かなすぎなことには驚いたけど……」
とはいえ、みんなお祝いに何かくれたのだから、悪い人たちではないのだろう。
むしろ本当は恋人でも何でもないのに受け取ってしまったことに、罪悪感がある。
ちょっと後ろめたい気持ちになっていると、小鈴のほうはまた別の理由から落ち込んでいる様子だった。




