無口な彼女2
「見えてるものだけ……ですか?」
「そう、小鈴ちゃんの神通力は視界に入っていることが条件なのよ~」
「ん」
これに、小鈴自身も肯定するように頷いた。
なるほど、確かに目的のコーヒーミルは棚の奥に置かれていた。あれでは死角になっていて、見ることができない。
「それでも充分に便利な力ですね」
「うふふ、わかるわ~。たくさんの荷物も一辺に運べるし~」
「んっ」
僕らの称賛に、小鈴は得意げに胸を張る。けれど――
「でも~、人に見られるとまずいから、あんまり使う機会はないのよね~」
「……ん」
秋穂さんの残念そうなつぶやきに呼応するように、肩を落とす。
「下の喫茶店でも使えたら、とっても助かるんだけど……さすがに一般のお客さんに見せるわけにはいかないものね~」
「んん、ん」
小鈴が何かを訴えるように手を動かす。
やはり僕には何を言ってるのかさっぱりわからないが、秋穂さんにはしっかりと伝わっているようだ。
「あら~、ダメよ。これは小鈴ちゃんの身を守るためだもの~」
「……ん」
「その気持ちだけで嬉しいわ。だから気にしないで~」
本当に心底嬉しそうな笑顔を向けられて、小鈴のほうも仕方なさそうに笑みを返す。
二人の様子を見ていた、僕はひたすら不思議な感覚だ。
「よく普通に会話が成立しますね……」
「慣れてくれば、ヤツカちゃんもわかるようになるわよ~」
そうなる未来が全然見えない。
信じられないでいる僕に、秋穂さんは優しい笑みを浮かべた。
「仕方ないわよ~。私も最初は戸惑ったもの~」
「秋穂さんも!?」
「えぇ。何よりも、小鈴ちゃんが付喪神なのに何も言ってくれないことが驚きだったわ~」
「え? 付喪神なのに、って?」
彼女の言っていることが、ぱっと理解できなかった。
これに秋穂さんのほうが意外そうな表情を見せる。
「あら~、知らなかったの? 付喪神がどうやって生まれるか」
付喪神の生まれ方……。
「長い間使われた道具が、付喪神になるんですよね?」
「そうよ~。でも、それだけだと付喪神にはなれないの」
年月だけでは足りない、ということらしい。
では、他に何が必要だというのか?
「人に伝えたい想いを持っていることよ」
「?」
なぜ? と最初に思った。
そこに秋穂さんが付け加える。
「人に伝えたいことがあるから、人の姿になるのよ~」
確かに、道具のままでは自分から人に関わることはできないだろう。
わざわざ人の形を取るからには、そこに意味があるはずだ。
それが付喪神の場合は――伝えたいことがあるから。
なるほど、それは理解できないでもない。
「だから付喪神っておしゃべりな子が多いのよね~」
でも、だとしたら確かに不思議だ。
「小鈴はしゃべらない」
「そうなのよね~。付喪神だから、なにか伝えたいことがあるはずなんだけど……」
僕たち二人の視線が、自然と小鈴へと向いていた。
「ん……っ!」
見つめられた女の子は、身構えるように一歩下がる。
「あぁ、大丈夫よ~。無理に聞き出したりしないから~」
秋穂さんは何やら意味深に微笑んで、続ける。
「小鈴ちゃんはしゃべれないんじゃなくてやべらない、ってことはちゃ~んとわかってるもの~」
――しゃべれないのではなく、しゃべらない。
つまり、しゃべることはできるけれど、あえてしゃべっていないということ。
何か事情がないと、そんなことはしないだろう。
そしてその事情も教えてくれないらしい。
なら、下手に触れないほうが、彼女のためだ。
「……まぁ、僕としては声に出してくれたほうが会話が通じるんだけど……」
実害が出ているから、ついつい言葉が漏れてしまう。
「う~ん……こればっかりは慣れるしかないわね~」
思案顔で呟いてから、秋穂さんは何かを閃いたように手を打つ。
「そうだわ~。じゃあ、二人で買い出しに行ってきてくれない?」
「え? なんでそうなるんですか?」
「一緒にお仕事すれば親睦も深まるもの~」
そんな簡単には行かないと思うけれど……。
とはいえ、僕が意見する前に秋穂さんが話を進めてしまう。
「小鈴ちゃん、今日の仕入れはまだよね?」
仕入れ、とは喫茶店で使う食材のことだろうか。
「ん」
この問いに、小鈴は頷きで答えた。
「よかった~。今日は買う物が多いから、小鈴ちゃん一人だと心配だったのよ~。ヤツカちゃん、荷物持ちよろしくね~」
僕の意思とは関係なく、あれよあれよと仕事が決まってしまうのだった。




