神様雇います9
「――ッッッ!」
男は声をあげるヒマもなく吹っ飛んでいき、壁に激突した。
白目をむいて倒れた男は、呼吸こそしているものの起き上がってくる気配はない。
「ヤツカさん、すごいです!」
かえでが満面の笑みで駆け寄ってくる。
どうやら、体を縛っていた術も解けたようだ。
「かえで、ケガは? 痛めたところとかない?」
「大丈夫です。ヤツカさんがすぐに助けてくれたおかげです」
かえでの言葉に、秋穂さんも同意するように頷いた。
「ほんと助かったわ~。あの程度の術なら私でも普通に解けるけど、少し時間がかかりそうだったから、ヤツカちゃんがいなかったどうなってたか……」
「解くことはできるんですね、普通に」
「当たり前よ~。私と夏希ちゃんもそれなりに修行してるもの。ねぇ、夏希ちゃん?」
「え!? ……あ、うん、もちろん! 時間さえあれば……」
明らかに嘘をついているな。
まぁ解けないのは仕方ない。
それほどに、あの男の力は強かった。
だからこそ気になる。
それほどの力を持った男が、なぜかえでを狙ったのか?
「かえでのことが危ないみたいに言ってたけど、どういうこと?」
「それは……」
言いよどむかえでの肩に、秋穂さんが手を置く。
「かえでちゃん、私から説明しましょうか?」
「……いえ、ヤツカさんには二度も助けてもらいましたし、自分の口から話したいです」
意を決するように深く呼吸をする。
そうして、彼女は僕の目をまっすぐに見つめてきた。
「私は、超依り代体質なんです」
初めて聞く言葉だった。
「えっと……つまり、どういうこと?」
「私の体は、霊の器として最高なんです。どんなに弱い霊でも、私の体に入れば上位の神様と同じくらいの力を得られるらしいです」
「――っ!?」
それが本当だとしたら、確かに危険だ。
普通の人には見えないが、世の中は神や霊であふれている。
それらはすべてが良い存在ではない。
悪霊や悪神が彼女の体を乗っ取るようなことがあったら……。
その後の惨状はあまり想像したくない。
「でも、本当に? そんな体質、聞いたこともないけど」
信じられない、というよりも、信じたくないという気持ちで疑問を投げかける。
これに秋穂さんが答えてくれた。
「本当のことよ~。理由はわからないけど数百年おきに、かえでちゃんのような子が生まれてくるの」
だから護身のためにお守りを持たせていたのだと、付け加えられる。
「……」
普通の女の子だと思っていた。
今見ても、特別な力なんて感じない。
なのに、数百年に一人の特異体質を持っている?