表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/93

無口な彼女1


 今日も今日とて、僕は事務所の掃除をしていた。


「……ん」


 そこで、後ろから声をかけられる。


 声と言っていいのか疑問だが、振り返ると予想通りの人物がそこにいた。


 小学校高学年くらいの外見で、古風なおかっぱに、赤色の着物姿。


 事務所の一員である付喪神の小鈴だ。


「えっと、何か用?」


「ん」


 なにか主張しているようだが、いまいちわからない。


 どうしたものかと困惑していると、彼女のほうに動きがあった。


 僕の服をつかんで、軽く引っ張る。


「……ついていけばいいのかな?」


「んっ」


 嬉しそうな頷きが返される。

 どこに連れていかれるのかわからなかったが、引っ張られるままについていく。


 目的地はすぐそこだった。

 事務所の一角、棚がいくつか並んでいるスペースだ。


「んっ、ん!」


 女の子はひとつの棚を指さして、ぴょんぴょんと跳ねる。

 示しているのは、一番上の段だ。


「えっと……もしかして取ってほしいものがある……とか?」


「んっ」


 またしても嬉しそうに頷かれた。


 なるほど、彼女の身長では手が届かないだろう。椅子とかを使ってもギリギリかもしれない。


 僕ならこのまま手を伸ばせば届きそうだ。


「でも、どれを取れば……?」


 とりあえず手前のものを試しに取ってみる。


「んん」


 首が横に振られた。違ったらしい。


 とはいえ、正解を口にしてもらうこともできないだろう。


 仕方ないので手あたり次第に手にとっては、無口な彼女に確認する。


 そうして繰り返すこと数回。奥の方に隠れていたコーヒーミルでやっと頷いてもらえた。


「これは……一階の喫茶店の?」


「ん」


 肯定するように頷いてから、改まって頭を下げられた。


 二つ目は、僕への感謝を示しているのだろう。


「どういたしまして。これ、お店まで運ぼうか?」


 大きめのコーヒーミルは、見た目以上に重い。小柄な女の子に持たせるには、すこし心配だ。


 けれど、小鈴は首を横に振った。


「……ん」

 そして軽く指を降る。


 すると、僕の手から重みが消えた。

 ふわり、とコーヒーミルが浮かび上がる。


 僕の手から逃れたそれは、小鈴の周囲をゆっくりと飛び回った。


「あぁ、神通力か」


 たまにしか見ないからすっかり忘れていたが、彼女には物を浮かして運ぶ力がある。


 これなら、重いものでも難なく運べるだろう。


「……あれ? じゃあどうして自分で棚から取らなかったんだ?」


 手が届かなくても、浮かしてしまえば問題ないはずだ。


「ん、んん」


 僕の疑問に、着物の女の子はなにやら慌てた様子で身振り手振りをしている。


 なにか説明しようとしているようだが……さっぱりわからない。


 肯定や否定くらいなら判断がつくが、長文となるとやはり難しい。


「えっと……」


 どうしたものかと困っていると、ふと背後から解説が入った。


「無理なのよ~。小鈴ちゃんは見えてるものしか動かせないから~」


 秋穂さんの声だ。

 振り返ると、そこにはいつもの優しい笑みを浮かべた彼女がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ