所長とコーヒー4
席を埋めているお客さんは全員女性だった。
外の行列にも、男性の姿は見えない。
「レディースデーだもの~」
「いやいや……」
それだけでは説明になっていない。
レディースデーとは、別に女性で貸し切りという意味ではないのだから。
「もしかして、女の人にはすごいお得なサービスが付くとか……?」
なんとなく予測を立ててみるが、秋穂さんは首を横に振った。
「いいえ、コーヒーのおかわりが一杯無料になるだけよ」
「それだけで……?」
なのに、この人気というのは、訳がわからない。
一体どういうことだろう?
不思議に思う僕だが、それは秋穂さんも同じらしい。
「ね~? ほんと、どうしてなのかしら?」
僕の指摘に、彼女のほうも首を傾げていた。
「レディースデーを始めたばかりの時は、こんなことなかったのよ~」
まぁわかる。おかわりが無料になるだけなら、そこまでお客は集まらないだろう。
「それでも他の曜日よりは混むから、水曜だけは私もお店を手伝うようにしてたの。でも、どんどんお客さんが増えるから、私と小鈴ちゃんだけだと回らなくなっちゃって~」
それで僕の手を借りた、ということらしい。
だとしても、結局人気の理由はわからない。
「特別なことはしてないはずなんだけど~?」
不思議そうにしていた秋穂さんだが、「注文いいですか?」というお客さんの声に反応して、満面の笑みに戻る。
「ひとまず、注文は私が受けるわね~。ヤツカちゃんは、小鈴ちゃんが作ったお料理やドリンクを運んでちょうだい」
言い終わるなり、さっそくお客さんのところに行ってしまう。
いきなり満席となると、注文を取るのも大変だろう。
それなのに、接客をする秋穂さんは楽しそうだ。
一階を喫茶店にしたのは「趣味」とか「やりたかったから」というのが理由らしいから、夢だったお店が繁盛して嬉しいのかもしれない。
こっちまで楽しい気分にさせられるような笑顔だ。
その表情に見とれていると、ふと周囲から声が聞こえた。
「あぁ、秋穂さん……すてき」
「今日もなんてキレイなの」
感動しているような小さなささやきは、あちこちから上がっている。
周りを見渡せば、席を埋めているお客さん全員の視線が、秋穂さんを追いかけていた。
「…………」
なるほど、原因がわかった。
レディースデーとか関係ない。
ただ単に、秋穂さんの人気だ。
さっき秋穂さんは「水曜だけは混むから手伝うようにしている」と言っていた。
しかし事実は逆だ。
水曜だけは秋穂さんが必ずいるから、お客さんが殺到している。
女性客たちの反応を見る限り、こちらが正解だろう。
「……まぁ、理由なんてどうでもいいか」
お店が繁盛してて、秋穂さんは接客を楽しんでいる。
なら、何も問題はない。
この時まではそう思っていた……。
しかし現実は残酷だ。
秋穂さんが注文を聞き終えて、小鈴が調理をしていく。
完成した品を、僕と秋穂さんで分担しながら運んでいる時だった。その問題が起きたのは。
「……秋穂さんがよかったな」
僕が料理を届けたお客の言葉だ。
ぽつり、と聞こえるか聞こえないかくらいの声で不満が漏らされる。
これは一度や二度ではない。
僕が対応したお客は、もれなく全員不満そうだった。
それはそうだ。秋穂さんを目的に来店しているのだから、僕が出てきて嬉しいはずがない。
仕方ないということは理解できる。
けれども、僕はずっと不満をぶつけられるわけで。
「…………」
正直、ここにいるのが辛い。
どうして僕がこんな目に遭わなければいけないのか?
いっそ逃げ出してしまいたい。
しかし、そうもいかない。
今この喫茶店はギリギリで回っている。猫の手も借りたい状況だ。
ここで僕が抜けたら、お客への対応が崩壊する。
「……」
とはいえ、まだまだ不慣れな僕がいても焼け石に水だった。




