所長とコーヒー2
「どうしてこうなった?」
よくわからないまま、僕は着替えさせられていた。
白いシャツに黒いズボン。そして腰から下だけのエプロン。
いわゆる典型的なウェイタースタイルにさせられてしまった。
「ヤツカちゃん、似合ってるわ~」
なぜか嬉しそうに微笑む秋穂さんも、ウェイトレス姿に着替えている。
といっても、ウェイトレスと聞いて想像するような服装ではない。
メイド服やエプロンドレスといったものとは大きく異なる。というのも、スカートではなくパンツスタイルだからだ。
まぁ、簡単に言ってしまうなら僕と同じ格好だ。白いシャツに黒いズボン。
違いがあるとしたら、僕のと違ってズボンがタイトなものになっているので、脚のラインがしっかりわかることくらいか。
これはこれでいい。
特に秋穂さんには、派手なウェイトレスの服よりこっちの落ち着いた格好のほうが似合っている。
「さぁ~がんばって働くわよ~」
と、張り切っていらっしゃるが、僕は未だに疑問符を浮かべていた。
「あの、結局これはどういうことですか?」
「あら~……何かわからないこと、あったかしら?」
「すべてがわからないんですけど!?」
まず、事務所の下に喫茶店があることが謎だ。
しかもいきなりその喫茶店に連れてこられたし、いきなりウェイターの格好をさせられるし。
わからないことしかない。
首を傾げている僕に、さすがの秋穂さんも理解を示してくれたようだ。
「そうね~、ちょっと説明が足りなかったわね~」
ちょっとではないと思うが、ここは流しておこう。やっと説明をしてくれるようだし。
「ここはね、私のお店なのよ~」
「秋穂さんがオーナーってことですか?」
「そうよ。このビルを買った時に、一階のスペースだけ使い道が決まってなかったのよね~。だから、前からやりたいって思ってた喫茶店をすることにしたのよ~」
「……」
さらっと、すごいこと言ってないか?
そもそもこのビル、秋穂さんの所有物だったのか。
それだけでも驚きなのに、スペースが余っていたからという理由だけでお店を始めるのもビックリだ。
「今では、藤堂霊能事務所のメイン収入源よ」
「それはさすがにマズくないですか!?」
「だって仕方ないじゃない。事務所には、ほとんどお客さん来ないんだもの~」
それは否定できない。
今のところ僕が事務所に来てから、まともな客は一人も来ていない。
なのに、どうして彼女たちの生活が成り立っているのか?
ずっとその疑問を抱えていたのだが、答えがわかった。
別の仕事で生計を立てていたわけだ。
つまり、この喫茶店のおかげで食うに困っていない、と。
からくりがわかってしまえば、何と言うことはない。
霊能事務所では滅多にお客が来ないだろうけど、喫茶店なら上手くやればお金を稼ぐこともできるだろう。
それは理解できた。しかしなぜ急に僕が手伝いに駆り出されたのか?
その答えも、秋穂さんがすぐに教えてくれた。
「毎週水曜日はレディースデーで、とっても混むのよ~。だからお手伝いしてもらえると助かるのよね~」
「なるほど……」
忙しくなることがわかっているから、人手がほしいということらしい。
「そういうことなら手伝いますけど……僕、こういう店で働いた経験はないですよ?」
「大丈夫よ~、ヤツカちゃんだもの」
「いや、意味がわからないです」
なぜ僕なら大丈夫という思考になったんだ?
「だって、ヤツカちゃんとっても強いじゃない」
「……?」
ますます意味がわからない。
「何かに優れている人は、他のこともそこそこできるものなのよ~」
「そういうものですか?」
「えぇ。だからヤツカちゃんなら大丈夫」
「……」
信頼してもらえるのはありがたいが、いまいちピンと来ない。
確かに僕は、戦力としては優秀だろう。しかし、戦い以外で活躍できた覚えがない。
秋穂さんのことを指しているのなら、わからなくもないのだが。
大量のケガレが相手でも、たった一言の祝詞で退治してしまうほど強い力を持っている。そこに加えて、喫茶店経営で事務所のみんなを養っていることもわかった。
普段から落ち着いた態度で、どんなことでも笑顔で受け入れてくれる。
きっと秋穂さんなら、どんなことをやらせても問題なくこなしてしまうのだろう。
そんな人に大丈夫と言ってもらえたのだから、僕も頑張ってみるしかないか。
そう決心していると、秋穂さんが店内の時計に目を向けた。
「そろそろ開店時間ね。小鈴ちゃん、よろしくね~」
「……んっ」




