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所長とコーヒー1


 とある日の朝。


 いつものように事務所の掃除をしていると、秋穂さんが声をかけてきた。


「ヤツカちゃん、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど~?」


「仕事ですか!?」


 期待から、自然と声が大きくなった。


 貧乏から脱却するために出稼ぎにきたのに、ここのところ雑用しかしていない。


 この事務所にお世話になったおかげで、住む場所と最低限の食事は保障されているが、贅沢はできない。


 正直、もっとゲームとかして遊びたいし、買い食いもしたい。


 そうなると、雑用以外の仕事をしてちゃんと報酬を稼がないと。


 そう意気込む僕に、秋穂さんはいつも通りのほがらかな笑むを浮かべる。


「事務所のお仕事じゃないんだけど、お仕事ではあるわね~」


「任せてください。仕事なら何でもやります!」


 我ながら見事な即答である。

 これに、秋穂さんは満面の笑みを返してくれた。


「助かるわ~。それじゃあ、さっそく一階に来てくれる?」


「……え、一階?」


 この藤堂霊能事務所は二階にある。


 三階より上は居住スペースだ。僕に当てがわれた部屋も、上にある。


 しかし、この下に何があるのかは知らない。


 何の説明もされていないし、特に意識していなかった。


 それも仕方ない。

 事務所から階段を下りても、一階にあるのは壁だけなのだから。


 現に秋穂さんに連れられて地上に降りてきても、そこにはいつもと変わらない白壁があるだけ。


「こっちよ~」


 そう言って、秋穂さんは建物の裏手への回っていく。

 なるほど、反対側に入口があるらしい。


 霊能事務所の下にある空間……どんなものが待ち構えているのか想像もできない。


 しかし秋穂さんがわざわざ手伝ってほしいと言ってくるくらいだから、生半可なものではないだろう。


「――――」

 これは覚悟が必要そうだ。



 そうして事務所の裏手に来た僕は、衝撃の光景を目の当たりにした。


 反対側の白壁とは違い、こちらは木目調の壁に、大きな窓がついている。その窓から中の様子が確認できた。


 いくつかのテーブルと椅子が並び、観葉植物も置かれている。


 奥にはカウンターのようなものがあり、たくさんのグラスやカップがそろっている。


 それなりの人数が入れそうだが、今は無人だ。


 その理由はすぐにわかった。


 入口と思われる古風な扉には「開店準備中」と書かれた札がかけられている。


 しかし、すでに立て看板は出されていて、そこには「本日のオススメコーヒー」というタイトルと共に、いくつかの商品名が書き込まれていた。


「…………」


 そう、どこからどう見ても喫茶店だ。


「えっと……秋穂さん? これは?」


「喫茶店よ~」


 見ればわかる。


「どうして事務所の下に喫茶店が?」


「うふふ、それはね~、趣味よ♪」


「……?」


 質問すればするほど、疑問が深まる。

 混乱する僕に、秋穂さんはいい笑顔で告げた。


「それじゃあ、ウェイターよろしくね~」


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