腹ペコの貧乏神8
「や、やっぱり……わたしのそばにいる人は……み、みんな不幸になるの……」
彼女の中で、なにか決意が固まったように感じられた。
それは、諦めた者の目だ。
「だから――」
強い覚悟で続けられた言葉を、
「――あのさ」
けれども僕は遮った。
「次は何を食べようか?」
優しく問いかける。
「え? ……え、え?」
戸惑う少女に、僕は続けた。
「ほら、ケバブはダメになっちゃったから。新しく何か買おうかなって?」
説明を聞いてもなお、彼女は困惑したままだった。
「あの、えっとえっと……み、見た……よね? わたしのそばにいたら……また、ああいうのが来ちゃうかも……」
確かに危険だ。
ミヤビの貧乏神としての力はかなりのものだろう。
意図的ではないにしろ、あの規模のケガレを呼び寄せてしまったのだから。
それほど強力な貧乏神なら、近くにいるべきではない。
けれども、しかし――
「見たよね? 僕なら問題ない」
「……あっ」
彼女も気づいたらしい。
そう、ケガレはすぐに倒した。
怪我ひとつ負うことなく、僕は健在だ。
「どんな不幸が襲ってきても、こうして無事でいられるよ」
これなら、一緒にいることは問題じゃない。
「だからさ。次、何食べる?」
さきほどの質問を繰り返す。
「え……あの……」
これに、少女は驚きに目を見開いて――
「……ご、ごめんなさいぃ!」
走って逃げ出した。
「なんで!?」
どうして彼女が逃げてしまったのか、その理由が僕にはさっぱりわからなかった。
そんなことがあった翌日。
僕はいつものように、せっせと掃除をしていた。
「……じー」
しかし、いつもと違うことがひとつ。
「じー……」
すごく視線を感じる。
声まで出して僕を観察している人物がいた。棚の影から覗く女の子。
中学生くらいの見た目で、濡れ羽色の髪は足首に届くほど長く、黒を基調とした着物姿。
古風な日本人形を思わせる貧乏神。
ミヤビがこちらをじっと見つめている。
「うぅ……このままじゃダメ……頑張らなきゃ……」
なにやら、ぶつぶつ言っている。
「でも、やっぱり怖い……もし断られたら……うぅ……」
なんなのだろう?
困惑しつつも掃除を続けていると、彼女は大きく深呼吸をした。
「……うんっ、い……いこう」
そうして物陰から出てきた。
まっすぐ僕のほうに向かってくる。
「ミヤビ? さっきからどうしたの?」
僕の質問など聞こえていない様子で、少女は僕の正面で立ち止まった。
そこで、また大きく深呼吸。
自分を鼓舞するように、小さく何度も頷く。
それから、顔を真っ赤して、こちらを見つめてきた。
「あ、あの……! わたしと……友だちになって……くれませんか?」
「――!」
意外な言葉だった。
驚くと同時に、嬉しい思いがこみ上げてくる。
だって、彼女は言っていたはずだ。
――誰とも友だちにならない。
――誰も不幸にしたくないから。
そう言っていた女の子が、自分からこんなことを言ってくれたのだ。
「……あの」
不安そうに返事を待つ女の子。
彼女の思いにどう答えたのか。
そんなわかりきったことは、わざわざ語るまでもないだろう。




