腹ペコの貧乏神7
「――ッ!」
僕はとっさにベンチから立ち上がり、ミヤビもビクッと視線を上げた。
「……何か……来る?」
少女の言葉に呼応するようなタイミングで、それは出現した。
地面から黒い霧のようなモノが浮き上がってくる。
それが何であるかは、すぐにわかった。
「け、ケガレ……!」
怯えるように、ミヤビの全身が跳ねる。
負のエネルギーの塊であるケガレは、すでに形を成した。狼のような形態。
しかし、それは問題ではない。ケガレが動物の姿を形作ることは、よくあることだ。
問題があるとすれば、その大きさだろう。
「……デカすぎだろ」
狼の体躯は、通常のそれの数倍。トラックほどの大きさだった。
口を開ければ、僕なんて一飲みにできてしまいそうだ。
これほどの規模のケガレが自然発生することは、滅多にない。
並の除霊師なら、遭遇した瞬間に憑り殺されてしまうだろう。
こんなモノに、偶然たまたま出会ってしまうなんて……不運と言うほかない。
つまり――
「これも、幸運を食べられた影響か」
「ご……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「あ、いや、責めてるわけじゃなくて……」
などと話していると、ケガレのほうに動きがあった。
――■■■■■ッ!!
咆哮を上げる。
僕たちを敵と認識して、爪と牙を構える。
「……」
正直、かなり危険な状況だろう。
これほど巨大なケガレがいて。僕たちに敵意を向けている。
そんな状況で僕が思ったことは、ひとつだった。
――邪魔だ。
僕は今、ミヤビと話をしているんだ。その邪魔をしないでほしい。
「さっさと消えてもらおうか」
左腰に両手を構える。まるで刀を持つように。
そうして、素早く右手を動かし一閃。
――■■ッ!
うめき声を残して、ケガレが霧散していく。
「……すごい」
呆然とするミヤビの声。
僕は直刀を収めてから、彼女に向き直った。
「大丈夫? ケガレに当てられたりとか、してない?」
「う、うん……大丈夫。でも……」
ミヤビは悲しそうに、視線を落とした。
つられて、僕も彼女の足元に目を向ける。
さきほど僕たちが食べていたケバブが二つ、地面に落ちていた。
「あぁ……落としちゃったか」
僕はケガレ退治に集中して、いつの間にか手放していたらしい。
ミヤビは単純にビックリして落としたのだろう。
これはもう食べられそうにない。まだ半分も食べていなかったのに。
なんてもったいない、などと思っていると、ミヤビが申し訳なさそうな目を向けてきた。
「さっきのケガレ……あ、あれも……わたしのせい」
「……」
否定はできなかった。
あれだけ大きなケガレが偶然出てくるとは思えない。




