腹ペコの貧乏神6
「……ごめんなさい。えっと……わたし、ケバブ食べたことなくて……どうやって食べるのか……知らなくて?」
「ごめん、僕もよくわかってない」
名前だけはたまに耳にするが、具体的にどんな食べ物なのかまったくわからない。
とはいえ、買ってしまった以上は挑戦してみるしかないだろう。
二人して、包みを開けてみる。
まず最初に、閉じ込められていたスパイシーな香りが鼻孔をくすぐった。
「……おいしそう」
それだけでミヤビの表情が、わずかにほころぶ。
続いて、包みの中に目を向けることで、やっとケバブの姿を確認する。
それは、パンのようなもので野菜と肉を挟んだものだった。
まず、大量のお肉は嬉しい。そしてレタスとトマトが彩りも加えていて、見た目からして食欲をそそる。
パンで挟まれているから、食べやすそうでもある。
「ハンバーガーみたいに、かぶりつく感じでよさそうだね」
「じゃ……じゃあ、いただきます……!」
僕の言葉を聞いて、ミヤビはもう待ち切れないといった様子で、ケバブにかぶりついた。
そうして――
「…………ッッ!」
言葉にならない声を上げて感動している。
目を輝かせて、二口目三口目と食べ進めていく。
「気に入ってくれたみたいで、よかったよ」
店員の勢いで買わされたから、口に合わなかったらどうしようかと思ったが、心配はいらなかったらしい。
ほっと安心している僕に、ミヤビは口の中に頬張った分を飲み込むと小さくうなづいた。
「うん……楽しい」
「楽しい?」
食べ物の感想としては違和感があったので、とっさに聞き返していた。
それにミヤビが、肩をビクッと震わせる。
「ご、ごめんなさい……変、だった……?」
「いや、変ってことはないけど。味の感想らしくないな、と」
抱いた疑問をそのまま伝えると、ミヤビは言葉を選ぶようにしてゆっくり答える。
「えっと……あの、わたし……こんなふうに外で、誰かとごはん食べたことなくて……。し、してみたいって……思ってて……」
やりたいことができたから楽しい、か。そう言うことなら、気持ちはわかる。
「でも、このくらいのことなら、簡単にできるんじゃ……?」
ちょっと外でごはんを食べるだけだ。
やろうと思えばいつでもできるだろう。僕はそう思ったのだが、ミヤビの場合は事情が違うらしい。
「一緒に……ごはん食べてくれる友だちが……いないから」
「…………」
一人でなら、外で食事をすることも可能だろう。
けれど、彼女は「外で誰かと食事を」と言った。
なるほど、友だちがいなければ、それは不可能だろう。
「……うぅ」
少女が涙目になる。
「ご、ごめん! 嫌な思いをさせるつもりはなくて……!」
「うぅぅ……」
まずい。涙目どころか、もうすぐ泣き出してしまいそうだ。
「えっと、あれだ! 友だちがいないなら、今からでも作ればいいんだよ!」
名案とばかりに声を張るが、ミヤビは悲しそうに肩を落とした。
「む、ムリ……。わたしが近づくと……その人を不幸にしちゃうから」
泣きそうになっている少女は、けれども強い意思を込めてつぶやく。
「わたし……誰も、不幸にしたくないから……」
貧乏神。
人を不幸にすることが本質の神様。
しかし、ミヤビはその本質を拒んでいる。
「だから……わたしは、誰とも……友だちにならない……」
自分に言い聞かせるような言葉。
「――」
だけど、僕はそこに大きな矛盾を感じた。
話を聞く限り、ミヤビは友だちを欲しがっているように見える。
なによりも「誰も不幸にしたくない」なんて、人のことが好きだから出てくる言葉だ。
それなのに、「誰とも友だちにならない」なんて、どこかおかしい。
「あのさ……」
うつむく少女に声をかける。
けれど、なんと続ければいいのかわからない。
彼女にかけるべき適切な言葉が見つからない。
それでも、伝えなきゃいけないことがあるような……?
そう思った直後だった。
嫌な気配を感じたのは。




