腹ペコの貧乏神5
ミヤビは、どうやら僕を追いかけてきたらしい。なんでかは知らないが。
ともかく僕を見つけて安心したのか、彼女は疲れた様子で息をついた。
それから、僕に引っ張られていた手首に目を向ける。
「ひゃあっ!?」
そして反射的に手が引かれた。
弾かれるように、僕の手から逃れる。
「……」
勝手に腕をつかんでしまったのは悪いけど、その反応はさすがに傷つく。
そんな僕の心情に気づいたのか、ミヤビが慌てた様子で一歩近づいてきた。
「あの……えっと、その……ご、ごめんなさい……」
「いや、いいよ。いきなり腕つかまれたら、ビックリするのはあたり前だし」
だから謝る必要はない、と伝えたかったのだが、ミヤビは大きく首を横に振った。
「そ、それだけじゃなくて……その……」
なにやら言いよどんでから、ゆっくりと続けた。
「夏希さんから聞いて……」
「――?」
なんのことか、最初はわからなかった。
しかし少し考えると、すぐに思い当たることがあった。
「あぁ、幸運をあげたこと?」
念のため確認すると、彼女は小さく何度もうなづいた。
「それなら気にしなくていいよ。僕が好きでやったことだし」
「でも、わたしは……」
彼女が何かを言いかける。そこで――
く~、と可愛らしい音が鳴った。
何の音だろう、と不思議に思っていると、
「……っ!」
ミヤビが顔を真っ赤にして、お腹を押さえた。
なるほど、音の発生源はそこらしい。
「えっと……」
ちょっと迷ってから、僕はそっと腕を差し出した。
「もっと食べる?」
この提案に、ミヤビは慌てて首を横に振った。
「ち、違います……これは……普通にお腹がすいて……」
「幸運だけじゃなくて、普通のごはんも食べないといけないんだ?」
「……貧乏神だって、ごはんは食べます」
わかる。
神様にも食事は必要だ。
僕も食うに困って、出稼ぎに来ているのだから。
「じゃあ、何か食べようか?」
それくらいの持ち合わせならあるし、アメ横なら食べ物もたくさん売っている。
「え……でも……」
ミヤビはしばし戸惑った様子を見せてから、なにか返事をしようと口を開く。
けれど、続きが話されることはなかった。
「わっ……わっ! ひ、人が……また……っ」
流れが変わった人波に飲まれて、ミヤビが遠ざかっていく。
「って、すこしは耐えてくれっ!」
慌ててミヤビに手を伸ばす。
ぎりぎり見失う直前に、彼女の腕をつかむことができた。
これで、はぐれる心配はなくなったが……。
「とりあえず、ここから離れた方がよさそうだね」
人が多すぎて、食事どころではない。
というわけで、僕とミヤビは上野公園に向かうことにした。
アメ横からは、徒歩一分ほどの距離だ。
すぐ近くということもあるので、アメ横で何か食べ物を買ってから公園に行くことに。
そうして購入したのは、アメ横内に何件もお店があるケバブだ。
食べたことがないから味はわからないのだが、外国人店員の押し売りに負けて買わされてしまった……。
ともかく、食べ物は手に入れたので、二人分のケバブを持って上野公園へ。
適当に歩いていると空いているベンチに見つけたので、並んで座る。
「ほら、こっちがミヤビの分」
「ごめんなさい……あの、お金は……」
「あぁ、気にしないで。もうすぐ事務所の給料日だし」
ほとんど雑用しかしていない僕に、いくら報酬が出るのかわからないが……。
とはいえ、ここは男の意地として払っておきたい。
購入したばかりのケバブを差し出したままでいると、ミヤビは申し訳なさそうにそれを受け取ってくれた。




