初仕事20
数日後の早朝だった。
「宅配便でーす」
事務所へ下りていったタイミングで、たまたま配送の業者と出くわした。
受け取ったダンボールには、宛先として「夜里かえで」と書かれていた。
これは住所スペースの三階に逆戻りかな?
そう思っていたところで、上から声をかけられる。
「ヤツカさん、どうかしたんですか?」
噂をすればなんとやら。
これから学校に行くところだったのか、制服姿のかえでが階段を下りてきた。
「なんか、かえでに荷物みたいだけど?」
受け取ったばかりのダンボールを、軽く掲げて見せる。
すると、かえでの目が輝いた。
「わぁ! もう届いたんですね。さすがネット通販、早いです!」
嬉しそうに駆け寄ってきたかえでは、今すぐ開けたそうにうずうずしている。
しかしここは階段だ。さすがにここでは無理だろう。
「ちょっと待って、とりあえず事務所に運ぶから」
「あ、はい! 助かります!」
と言われたものの、大きさの割に軽いダンボールだったので、特に苦労もなかった。
二人で事務所に入り、近くの机にダンボールを下ろす。
「ネット通販って言ってたけど、何か買ったの?」
「はい! 見ればすぐにわかると思いますよ」
そう答えて、かえでがさっそくテープを外して開封していく。
「見れば、わかる……?」
疑問に思いつつ見守っていると――
そこから出てきたのは、洋服だった。
ノースリーブの白いブラウスに、桜色のスカート。
どこかで見覚えがある。
これは――
「夏希が借りてた服?」
悪霊のせいで、溶かされてしまった服と同じものだった。
「はい! 夏希さんが弁償するって、購入してくれたんです。私は、気にしてないって言ったんですけど」
まぁ、夏希らしいな、と思う。
謝罪を行動で示さないと満足できなかったのだろう。
「……ん?」
などと考えていると、あることに気づいた。
「二着ある?」
そう、ブラウスもスカートも、同じものが二着入っていた。
お詫びとして同じ服を買うまではわかるが、どうして二着も?
不思議に思って首をかしげていると、かえでがなぜかちょっと嬉しそうに微笑んだ。
「あ、それはですね――」
と、なにか説明しようとしてたかえでの口を、素早く塞ぐ手があった。
「かえで、待った!」
夏希だ。
いつの間に、そしてどこから出てきたのか、夏希が両手でかえでの口を覆っている。
「えっと……僕が聞くとマズイ話?」
「そう。あなたには絶対に、何があっても教えない」
突き放すように告げられる。
この前の一件で、ちょっとは距離が縮まったように感じていたが、なんだか最初の頃に戻ったような感覚だ。
急にどうしたのだろう?
疑問に思っていると、ふとうめき声が聞こえてきた。
「ん……んー、んんっ!」
声の主はかえでだ。
その顔は紅潮し、わずかに苦しそうだった。
夏希にがっつり口をふさがれたせいで、息ができないのだろう。
「あ、ごめん」
「ぷはっ……!」
やっと解放されて、大きく息を吸ったかえでは、不思議そうに夏希のほうを向く。
「どうして夏希さんの分って言ったらダメなんですか?」
問いかけてから、一拍。
「――あっ!」
かえでがはっとして、今度は自ら口をふさいだ。
しかしすでに手遅れだ。はっきりと聞こえてしまった。
悪気はなかったのだろうが、隠そうとしていたことをかえでに暴露された夏希は、
「かえで……あなたねぇ」
困ったように肩を落とす。
怒っているというよりは呆れている感じだ。
夏希とかえでは付き合いが長いようだし、こういううっかりにも慣れているのかもしれない。
まぁ、それはそれとして……。
「夏希の分?」
なるほど、ブラウスとスカートが二着入っていた理由はわかった。
でも、どうしてかえでと同じ服を?
しかも自己評価では、似合わないと言っていた服だ。
僕がひとり疑問符を浮かべていると、夏希がぽつりとつぶやく。
「違うから」
「……え? なにが?」
落ち込んでいるかのようにテンションが低い夏希。
しかしそれは爆発する前の静けさでしかなかった。
「可愛いって言われたからとか、そんなんじゃないからっ!」
「ぐおっ!?」
直後に腹部を、衝撃が襲う。
あまりの衝撃に、体が宙に浮く。
なぜなのかはわからないが、どうやら殴られたらしい。
それは、これまでのどのパンチよりも強烈で。
吹っ飛ばされた僕が、気を失ったのは言うまでもない。




