初仕事17
右手をゆっくりと動かす。
まるで刀を抜くように。
その動きに合わせて、何もなかったところから直刀が出現した。
僕の手に収まった直刀が、淡く光を放つ。
――カミ?
悪霊が警戒するように身じろぎした。
「というか、気づいてなかったのか……」
僕が人間ではないことに。
まぁ、仕方ないのかもしれない。
この直刀を出していない時、僕の神気は割と弱いから。
注意深く観察でもしなければ、霊でも僕の正体には気づけないだろう。
僕が神様であることを知って、この悪霊が降参してくれれば一番楽なのだが……。
――デも、関係なイ……イチャイチャ、許さナい
やっぱり、そうなるよね。
自我が摩耗していて、冷静な判断ができなくなっているのだろう。
じゃあ、戦うしかない。
直刀を構える。
悪霊のほうも、ほぼ同時に動いた。
六本の腕がしなり、眼前に迫りくる。
襲いかかる脅威に、僕はただ直刀を横に薙いだ。ムチのような腕を迎え撃つように。
六本の腕と直刀がぶつかり、腕のほうが弾けた。
――ッッ!?
悪霊が驚愕したように身を引く。
力の差をやっと理解したらしい。それでも……。
――関係、ナいッ!
やはり引く気はないらしい。
飛び散った黒い水が集まり、腕が再生される。
しかし、再生されたのは四本だけだった。
僕との衝突で、肉体の一部が消滅したのだろう。
流動する体は無敵のように見えていたが、そうでもないらしい。
このまま続ければ、あの悪霊を倒すことも可能だろう。
「――でも」
それはよくない。
僕が倒してしまうのでは、意味がない。
だってこれは夏希の仕事なのだから。
なら、僕にできるのは手助けまでだ。
「ほら夏希、出番だよ」
「え?」
背後に呼びかけると、困惑した声が返された。
「あの腕は僕がなんとかするから。トドメは任せた」
「……っ」
後ろから、躊躇うような息づかいが聞こえた。
夏希はすべて自分ひとりでやりたかったのだろう。
僕が手出ししてしまったから、もうその目標は達成できない。
けれど、ここで投げ出すのが一番よくないということも、彼女なら気づいてくれる。
その期待通りに、彼女が立ちあがる気配がした。
「わかった。任されてあげる」
答えた直後、夏希が駆け出した。
僕を追い抜いて、悪霊に迫る。
――ウフフ
悪霊が四本の腕を駆使して、それを阻止しようとする。
だけど、僕がさせない。
夏希を襲う腕をすべて両断していく。
そうして開けた道を駆け抜けて、夏希が悪霊の懐に潜りこんだ。
「死ねぇ!」
彼女が全力で拳を振るう。
その衝撃で、悪霊の肉体が吹きとんだ。
けれど、黒い水でできた体はすぐに再生してしまう。
「まだまだっ!」
復活した悪霊の体に、二発目が放たれる。
しかも、そこで終わりではない。三発四発と、何度も何度も拳が振るわれる。
――フ、フフ……無駄、ムダ
いくら攻撃して、その度に悪霊は再生してしまう。
けれど、それも無限には続かないはずだ。
さきほど、僕との攻防で腕が二本消滅した。
確実に摩耗はするのだ。
なら、夏希の全力のパンチを受けて、長く持つはずもない。
――ム、ムダ、無駄無……ダダ、ダ……
余裕の笑みを浮かべていた悪霊が、徐々に焦りの色を見せる。
だが、もう手遅れだ。
「これで――トドメッ!」




