初仕事16
「――仕方ないか」
僕はとっさに動いていた。
左腰に両手を構える。
まるで、刀を持っているように。
「待って!」
しかし、夏希に止められた。
「これは、私ひとりで解決する事件だから」
強い決意を感じる言葉。
「姉さんなら、一人で倒せる。私だって、姉さんみたいに強くならないといけないの。早く一人前って認めてもらわないといけないんだから……」
自分に言い聞かせるように、言葉を重ねる。
「こんな所で、立ち止まっていられない!」
「……」
なるほど。
彼女が一人でやると言い続けていた理由が、なんとなく見えてきた気がした。
細かい事情まではわからないし、そこまで踏み込む気もない。
それでも、単に僕のことが嫌いだからとか、意地を張ってるだけとか、そういう理由ではないことは理解できた。
夏希の瞳からは強い覚悟が感じられる。
できることなら、彼女の意気込みを買ってあげたい。
「――」
けれどもしかし、気持ちだけでどうにかなるものではなかった。
「しまっ……!?」
夏希の対応が遅れる。
一本の腕が彼女に迫り、みぞおちに重い一撃が放たれる。
「……ッ!」
モロに攻撃を喰らい、彼女は数メートル後ろにふっ飛ばされた。
「夏希! 大丈夫か!?」
吹き飛ばされて地面に倒れた夏希に目を向ける。
「つぅ……なんとか」
普通に返事があった。
ぱっと見た限り、大きなケガもしていないようだ。
ただし、今の衝撃で残っていた服が、さらにボロボロになっていた。
しかも倒れてしまったことで、体を隠していた腕も無防備に開かれている。
つまりまぁ、心配してそっちを見た僕の目に、色々なものが飛び込んでくるわけで……。
まずい、と思っていたら夏希と目が合った。
彼女は自分の状態を確認すると、とっさに両手で大事な部分を覆う。
「っ! だ、だから見るなぁ!」
「ごめん! わざとじゃないんだって!」
慌てて視線をそらす。
それから、僕は集中するためにひとつ大きく呼吸して、付け足した。
「あと、もう一個ごめん」
謝罪しながら、僕は夏希と悪霊の間に進み出る
「あなた……何して?」
夏希が怪訝そうな声を上げている。
けれどその疑問には答えず、僕は改めて左腰に両手を構えた。
この動きに、夏希が声を荒げる。
「待ちなさい! 私ひとりでやるって言ってるでしょ!」
「うん」
「あなたも納得したはず」
「そうだね」
手を出さない、と確かに約束した。
「破ったら、百回ぶん殴るって言った」
「あれ、本気だったんだ……」
苦笑いがもれる。
半分冗談だと思っていたのだが、どうやら夏希の中では決定事項のようだ。
約束を破ったら、夏希のパンチ百発。
「……」
それは普通に生き残れる気がしない。
一発一発がとてつもない威力を持っているのだから。
僕も命は惜しい。
なるべくなら、約束を破りたくはない。
でも――
「それでも、女の子が困っているのに助けないなんて、僕の存在意義に関わるんだよ」




