初仕事15
「な、なんで!? 服がボロボロに?」
デートっぽく演出するために借りた可愛らしい服は、いまや見る影もない。
ブラウスは半分以上が消えてしまって、控えめな二つのふくらみが露わになっている。
スカートは完全になくなっていて、残骸と思われるものが足下に落ちていた。
しかもショーツも一部が欠けてしまっているから、今にも脱げてしまいそうだ。
端的に表現するなら、半裸だった。
いや、もはや裸と言っても、そう変わらないかもしれない。
「まじまじと見るな!」
彼女が両手で体を覆ったところで、僕も正気に戻って慌てて視線をそらす。
「ご、ごめんっ!」
「謝って済むことじゃない!」
横目に、夏希が睨んでいるのがわかった。今にも殴りかかってきそうだ。
しかし、その両手は服を失った体を隠すのに使われている。
殴りたくても殴れない、といった様子だ。
歯がみしていた夏希だが、一転して弱々しくうつむいた。
「…………見た?」
つぶやくように問われる。
見てないと答えたいところだが、さっきがっつり目が合ってしまったから言い逃れができない。
かといって、正直に言ったら後で殺されるかもしれない。
「い、いや、なんというか……見ようと思って見たわけではなくて」
「私のこんな格好は見たくないってこと?」
「そうじゃなくてっ!」
なんと返事をしても、命の危機だった。
こうなったら、僕の取れる手段はひとつだ。
「そ、そもそもなんで服がボロボロに?」
全力で話題をそらすことにした。
夏希はそれを良しとしない雰囲気だったが、僕の言葉に悪霊が体を再生させながら反応した。
――ウフフ、恥かしイ目に遭ワせて、デート台無シ……
女性は心底楽しそうだ。
しかし、これは……。
「しょうもない」
夏希が呆れた様子でつぶやいた。
僕もそう思う。
とりあえず服がボロボロになったのが、悪霊の仕業であることはわかった。
おそらく、彼女の体を形成している黒い水が服を溶かしているのだろう。
元が人間の魂だったことを考えるなら、そんな能力を手に入れていることは脅威に値する。
「でもなぁ……」
体を変質させたうえに特殊な能力まで得るほどの強い力を持っているというのに、やっていることがショボすぎる。
冷めた目を向ける僕たちに、悪霊の全身がざわめいた。
――お前タちに何ガわかルッッッ!!
怒りをはらんだ声で絶叫し、その体に変化が起きる。
胴体から、新たな腕が飛び出した。元々あったものも含めて六本の腕が蠢く。
魂を変質させているから、こういう肉体改造もできるわけか。
そしてもちろん、数が増えるだけで済むはずがない。
六本の腕がすさまじい速さで伸び、ムチのように襲いかかってくる。
「このっ!」
その攻撃を、夏希が迎撃しようと動いた。
片腕で胸を隠しつつ、もう片方の腕で襲いかかる六本の腕を順番に打ち返していく。
――フフ、ウフフ
あっさり対処された悪霊だが、余裕の笑みを漏らしている。
あたり前だ。
一度打ち返しておしまいのはずがないのだから。
悪霊は長く伸ばした腕をしならせて、再び攻撃をしかけてきた。
夏希が何度打ち返しても、何度でも襲いかかってくる。
「くっ……!」
横にいる少女が苦悶の声をもらした。
悪霊の一撃一撃はそこまで重くないようだし、夏希が全力で相手をすれば問題なかっただろう。
とはいえ、今は状況が違っている。
体を隠しているせいで、片腕しか使えない。それで六本の腕を相手しているのだから、それだけでも大変だろう。
そこに加えて、まずいことが起きていた。
ギリギリで形を残していたショーツが、激しく動いていることで落ちかけている。
それを気にして、夏希の動きが鈍くなっていた。
このままでは押し切られる。




