初仕事11
デートのアドバイスをしろなんて、無茶を言う。
僕のあれを経験に入れていいのかどうかも怪しいのに。
とはいえ、断るわけにもいかないだろう。
だって、夏希が拳を握っているから。
まともなアドバイスをくれなかったらぶん殴る、と言わんばかりに。
「えっと……」
無回答が一番まずい。
とにかくなんでもいいから答えを絞り出すしかないだろう。
「例えば、腕を組んで歩くとか?」
「う、腕を!? そんなことできるわけないでしょ!」
びっくりしたように慌てて、彼女は一歩だけ距離を取った。
その表情は、わずかに赤みが差している。
「大げさすぎない?」
腕を組むだけなら、そんなに驚くことでもないだろう。
しかし夏希は身を守るように、自分自身の体を抱きしめた。
「そんなことしたら、体が密着するじゃない!」
「……あっ」
言われてみれば、確かに。
腕を組むとなると、必然的に二人の距離が近くなってしまう。それこそ、体と体がくっつくほどに。
その状態で歩き回るというのは、さすがに恥ずかしいものがある。
「やっぱり止めておこうか?」
僕の方から撤回を申し出たのだが……。
「う、ううん……やってやろうじゃない!」
なぜか夏希のほうが、謎の熱意を燃やしていた。
「それくらいやらないとデートっぽくならないって言いたいんでしょ?」
なんか変な理解されてる!?
「いや、その……無理はしないほうがいいと思うけど?」
「別に無理じゃない! 私の本気を見せてあげる」
腕を組むことに、本気とかないと思う。
どうやら夏希は冷静さを失っているようだ。
「あなたになめられたままではいられないの。私にもできるってところを見せてあげる」
「いや、なめてないから。ほら、他にもっと楽な方法があるかもしれないし……」
なんとか腕を組まない方向で持っていきたい僕に、夏希が眉をひそめた。
「あなたが言い出したんでしょ?」
それはそうなんだけどっ!
「……」
あぁ、ダメだ。提案者だからこそ、あんまり強く反対できない。
しかし、誰かに見られるかもしれない状況で、女の子と腕を組んで歩くとか恥ずか死ぬ。
なんとか逃れる手はないか?
頭を悩ませている僕に、夏希は真剣な目を向けてきた。
「今日中に解決したいの」
そのためならなんでもする、という強い意志が感じられる。
そうして彼女は手を差し出してきた。
「だから、さっさと腕を出しなさい。私がデートをしてあげる」
殺意に近い気迫があった。
とてもデートという雰囲気ではない。
腕と一緒に命まで取られそうで、躊躇してしまう。
「いや……でもさぁ」
「いいから、出しなさい。さもないと――」
夏希が拳を握った。
「はい! わかりました!」
反射的に、腕を差し出す。
殴られるくらいなら、とりあえず従っておいたほうがいいだろう。
そう判断するくらいに、夏希のパンチは痛すぎる。
その強力な拳で脅迫まがいのことまでした夏希だが、
「…………」
僕の腕を見たまま、固まっていた。
どうして停止しているのかわからないが、彼女はまるで緊張しているように、ごくりと息を飲む。
「夏希、大丈夫?」
「え? な、なにが!?」
心配になって声をかけた僕に、彼女は視線を泳がせた。
「別に、このくらいなんてことないから」
取りつくろうように言ってから、何度か短く深呼吸を繰り返す。
そうして、意を決するようにひとつ頷いた。
「じゃ、じゃあ……やるから。あなたはじっとしてて」




