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初仕事9


 もう日が暮れそうだ。


 すでに何度も通った、人通りの少ない並木道を進みながら、僕は遠慮がちに口を開く。


「あの……夏希?」


「黙って」


 名前を呼んだだけなのに、すんごい睨まれた……。


 とはいえ、さすがにもう黙っていられない。


「そろそろ日が暮れるけど?」


「わかってる。仕方ないでしょ、ターゲットの悪霊が出てこないんだから……」


 僕たちは、ずっと公園内を歩き回っていた。


 上野公園をちゃんと見て回るのは初めてだが、公園とは思えない空間だった。


 まず、ひたすらに広い。


 たくさんの木々があって、大きな池があって……と、ここまでなら普通に大きな公園だろう。


 もちろん、それだけではない。


 公園内に美術館とか博物館が何個も並んでいるのだ。


 あとは神社もいくつもあった。


 上野大仏という、顔だけの大仏には驚かされた。


 そういったあれこれを眺めて歩くだけで、仕事を忘れそうなくらい面白かった。


「……」


 だけど、それが続いたのも二時間くらいだ。

 あとはひたすら同じ道をぐるぐると巡るだけ。


 公園内にはなんの変化もないし、悪霊が襲ってくることもない。


 これでは、飽きが来るのも当然だ。


「なんで出てこないの……!」


 夏希がいら立った様子でつぶやく。

 何か答えを提示してあげたいところだが、僕にも理由はわからない。


「そもそも、あんまり人前に出てこない悪霊……とか?」


 なんとなくの予想を打ち立ててみたが、これはすぐに否定された。


「被害報告がかなり多いから、それはない」


 むしろ、積極的に人前に出てくるタイプの悪霊のようだ。

 そこに夏希が、すこし言いにくそうに補足した


「デート中の男女が、長時間公園にいるとかなりの確率で被害に遭うみたい」


「なるほど……」


 だとしたら、納得できないところがある。


 夏希の情報が正しければ、男女が上野公園に長時間いたら悪霊が襲ってくるということになる。


 それなら僕たちが襲われていない理由がわからない。

 僕がいて、夏希がいて、かれこれ六時間ほど公園に滞在している。

 悪霊が出てくる条件はそろっているはずなのに。


 不足があるとしたら……。


「……デートっぽさが足りない、とか?」


「は? 何言ってるの?」


 怪訝な顔をされてしまった。


「いや、だって男女がデートしてたら悪霊が出てくるわけだろ?」


「今ある情報から考えるとそうなるけど」


「男はいるし、女もいる。けど、悪霊が出てこない。ってことは……」


 もう、ほぼ答えは出ている。


 夏希は認めたくなさそうだったが、他に思いつくものがなかったのだろう。嫌そうに、肩を脱力させる。


「足りたいものがあるとしたら、デートってこと?」


「たぶん。ちゃんとデートしてたら悪霊も出てくるんじゃないかな?」


「ちゃんとデートしてたでしょ」


「どこが!?」


 申し訳ないが、ここまでにデートらしいことは何ひとつしていない。


 そんな僕の物言いが納得できないのか、夏希は早口で返す。


「一緒に公園を歩いてたし」


「ただ、歩き回ってただけだよ」


 しかも、先を歩いていってしまう夏希を追いかける形で。


 横に並んで歩いていたのなら、まだデートっぽかったのだが。


「いろいろと見て回ったし。博物館とか、美術館とか」


「外観を見ただけだよね?」


 中に入ったら、博物館デートとかになりそうだが。


「神社にお参りとかもしたし……」


「必勝祈願だったけどね」


 悪霊が退治できますように、と。


 恋愛成就と書かれたノボリがでかでかと出ていたにも関わらず、わざわざ口に出して勝利を祈っていた。


 あくまでも仕事で来てるだけですよ感が丸出しだった。


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