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初仕事8


「仕事がたくさんあるなら、秋穂さんも言ってくれればいいのに」


 知っていれば、僕も手伝うことができた。


 そんなつもりでこぼした言葉に、しかし夏希は首を横に振った。


「それはダメ」


 これまでの冷たい突き放し方とは、少し違う。

 どこか真剣な様子で、声が重くなる。


「これは、私と姉さんだけでなんとかしないといけない依頼だから。他の人の力を借りるわけにはいかないの」


 夏希の表情からは、強い決意が感じられた。

 しかし、その表情がすぐに後ろめたいものに変わる。


「だから本来なら、今回も私一人で来るはずだったのに……」


 そうだ。彼女の隣には僕がいる。


 自分だけで解決しないといけない依頼に、同行者がいる状況だ。


「姉さんだって、人の力を借りるべきじゃないってわかってるはずなのに……何を考えてるんだか」


 呆れているような、困っているような雰囲気でため息をもらしている。


 確かに秋穂さんの行動は、夏希の決意には反するだろう。


 とはいえ、秋穂さんの考えもわからないでもない。


「今回の悪霊をおびき出すには、デートするしかないんだろ?」


「デートじゃなくて、デートのフリだから」


 ちょっと強めに否定された。


 とはいえ、夏希のほうも僕の言っている内容には納得しているようだ。


「そう……仕方ない。あくまでも、悪霊を見つけるため……」


 夏希は、自分に言い聞かせるようにつぶやいてから、僕に鋭い視線を投げた。


「あなたは近くを歩いているだけでいい。それ以外は何もしないで」


「えっと……何も?」


「そう。デートのフリさえしてくれれば、他の協力はいらない。悪霊も私一人で退治する」


「それは……」


 答えに困った。


 せっかく同行しているのだから、何もしないというのは申し訳ない。

 それに、秋穂さんからの指示もある。


「二人で一緒に戦え、って言われなかったっけ?」


「そんなの関係ない。私なら一人でも充分に戦える」


 夏希が歩調を早めて、少しだけ前を歩きだす。

 この先は自分ひとりでやる、と宣言するように。


「あなたの力は必要ない」


 彼女を気合いを入れるように、拳を握る。


 けれども、その様子はどこか自信がなく、自分に言い聞かせているようでもあった。


 ただ、僕を邪険に扱っているだけではない。

 彼女にも何か事情とか、思うところがあるのだろう。


 そう感じたからこそ、僕の返事は決まった。


「わかった。僕は手を出さない。約束するよ」


「そう……。破ったら、百回ぶん殴るから」


「それは代償が大きすぎるよね!?」


 さすがの僕でも死んでしまう。


「約束を破らなければいいだけでしょ」


「まぁ、そうだけど……」


「じゃあ、決まり」


「……決まっちゃったのか」


 僕の意見なんて無視して、不平等な契約が交わされてしまった瞬間である。


 やるせない気持ちになっている僕に、夏希は胸を張って宣言した。


「私一人で倒せるから、約束を破る心配はないけどね」


 頼りになる発言だが、なんとなく自信に欠けている印象があって……まるで自分を鼓舞しているようだった。


 そんな彼女に、僕は――


「確かにそうだね。任せたよ」


 信頼することで応えた。


 僕が感じたことは、ただの勘違いかもしれないし。

 そうでなくても、わざわざ藪をつついて蛇を出す必要もない。


 僕のこの選択が正解であったことを示すように、夏希は満足そうに頷いている。


「さっさと終わらせちゃうから、後ろで見てなさい」


 堂々とした発言は、じつにカッコよかった。


 女の子相手に使うのがちょっと違うかもしれないが、男らしいと感じる。


 本当に、あっという間に悪霊を退治してくれそうな予感をさせるほどに。



「…………」

 そして、それは予感でしかなかった。


 あれから六時間近く経過していた。


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