初仕事7
見慣れない夏希の姿に視線を向けていると、彼女のほうから口を開いた。
「あんまりじろじろ見ないで」
「……」
これが、頬を染めて視線をそらしながら言われていたら、さすがの僕もドキッとしたかもしれない。しかし……。
「なんで、拳を固めてるのかな?」
「気にしないで。反射的に殴ろうとしただけだから」
「気にするけど!?」
見ていただけで殴られてはたまらない。
「服が変わっても、その辺は変わらないのか」
「あたり前でしょ。私は私なんだから」
それはそうなのだが……。
「せっかくおしゃれしたんだから、もっと服にあった言動をしてほしい……」
この発言に、夏希は複雑な表情で視線をそらした。
「私にはこういう服は似合わないって言いたいんでしょ? そんなこと、自分でもわかってる」
「え? いや、そこまでは言ってないけど」
というか……。
「むしろ似合ってるよ。可愛いと思う」
「か、かわ……っ!?」
夏希は一瞬だけ驚き、目を見開く。
しかしすぐに深く呼吸をして、冷めた目を向けてきた。
「はいはい、そういうお世辞はいいから」
「お世辞とかじゃ――」
「とりあえず適当に褒めておいて、事務所にいることを認めてもらおうとか、そんなところでしょ?」
呆れるように言って、夏希が背中を向けた。
「私はそんな単純じゃないから」
突き放すように言い放って、公園の大階段を上っていく。
「……本当のことを言っただけなんだけど」
夏希の服装は、最初こそビックリしたが、かなり似合っていた。
その感想を口にしたのだが……。
どうして彼女が不機嫌そうなのかわからない。
「なんか悪いこと言ったかな?」
小さくつぶやく。
遠ざかる背中には届かなかったらしく、特に返事はなかった。
代わりに、こちらを振り向かないまま冷たい声が響く。
「さっさと来ないと置いていくから」
ひどい。
「待ってくれ!」
慌てて階段を駆け上がる。
ちょうど階段を上りきったところで追いついて、横に並んで歩いていく。
「私の服のことは、どうでもいいの」
そう前置きした彼女は、なぜか僕からあからさまに視線をそらして続けた。
「とにかくデートのフリだけしてくれればいい。この仕事は今日中に終わらせないとまずいから」
「ん? 何か問題でもあるの?」
心配になって尋ねるが、夏希は疲れた様子でため息をついた。
私の都合なんだけど……と前置きしてから続ける。
「明日からも別の悪霊退治で予定が詰まってて。この程度の仕事に、あんまり時間をかけてられないの」
「え?」
その情報は予想外だった。
予定が詰まるほど仕事がある、と?
「秋穂さんから、依頼は週に一回あるかないかって聞いてたけど?」
「あっ……」
僕の疑問に、彼女は顔をしかめた。失言だったとでも言いたげに。
少しの間考え込んでいた夏希は、しかし諦めるように脱力した。
「詳しくは言えないけど……私がやってるのは事務所に来た依頼とは別のものだから」
「他にも依頼が来るルートがあるってこと?」
「……まぁ、そんなとこ」
なるほど、そういうことなら納得だ。
秋穂さんの言う通り、事務所に依頼が来るペースが週一回くらいかもしれない。それでも、他のルートがあるなら
、仕事の数は週一よりは多くなるだろう。
いや、それどころではない可能性もある。
さきほどの夏希の発言を聞く限りでは、かなりの量の仕事があるようだった。




