表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/93

初仕事5


「――」


 驚きに声が出ない。

 着る服で、こうも印象が変わるとは。


 ついさっきの自分をぶん殴りたい。

 なにが、夏希も服を変えたら落ち着いた印象になるかも、だ。


 それどころではない。

 普段とはまるで別人だ。


 駅に向かっていく男たちのうち、何人かは彼女のほうを振り返っている。


 少し離れたところでは、チャラそうな男が夏希をロックオンして、こちらに近づこうとしていた。


 が、一歩踏み出したところで、目の前にいる僕に気づき「は? なんでこんな程度の男と?」とでも言いたそうな表情で去っていく。


「……」

 地味にショックだ。


 そんなふうに夏希と周囲の様子を観察していると、


「なに?」

 夏希が怪訝そうに眉をひそめた。


 その鋭く攻撃的な視線は、いつも通りの夏希でなんだか逆に安心する。


 なので、僕は気を取り直して、疑問を口にできた。


「その服、どうしたの?」


「私がこういう服着てたら、おかしい?」


 彼女の眼光が鋭くなった。

 いまにも殴りかかってきそうな雰囲気を感じる。


「いやいや! そうじゃなくって!」


 両手を首を左右に振って、全力で否定してから続ける。


「いつもと雰囲気が違うから、純粋な疑問としてどうしたのかなって思っただけだよ」


 この問いに、彼女は苦い顔をして視線をそらした。


「……この服はかえでに借りた」


「あぁ、なるほど。だから、かえでっぽい印象だったのか」


 それには大納得だったが、まだわからないこともある。


「でも、なんでかえでの服を?」


「姉さんに言われたの。今回の仕事はこういう服で行けって」


「……?」


 ますますわからない。

 悪霊退治なら、そんな動きにくそうな服装はむしろ適していない。


 疑問を深めている僕に、夏希はため息をついた。できれば話したくなかった、とでも言いたげに。


「今回の標的は、デート中の女性をよく狙ってるみたい」


「はい?」


 余計に話がわからなくなったんだけど?


「……ついて来て。歩きながら話すから」


 疲れきった声で言うと、僕の返事を聞かずに夏希は歩き出していった。


 慌てて後を追う。


「えっと、どこに行くの?」


「いいから黙ってついて来て」


「あ、はい……」


 よっぽど機嫌が悪いようで、彼女の言葉から感じるトゲトゲしさが数倍に増していた。


 これは下手に刺激しないほうがよさそうだ。


 言われた通り、黙って夏希の後ろをついて歩く。


 方角的には、どうやら上野公園に向かっているようだった。


 人込みの中を進みながら、夏希がため息をもうひとつ。


「じゃあ、今日の仕事の内容だけど……」


 それから仕方なさそうに説明を始める。


「簡単に言っちゃうと、目的は悪霊退治。上野公園に住み着いた悪霊をなんとかしてほしい、っていう依頼ね」


「なるほど」


 ということは、やっぱり上野公園に向かっているということだ。


 そう納得している僕に、夏希は鋭い眼光を投げる。


「だから黙ってて」


「あいづちすらも!?」


「ダメ。息もしないで」


「それは無茶すぎるんだけど!? 死んじゃうだろ!?」


「じゃあ息はしていいから、一言もしゃべらないで」


「わ――」


 わかった、と返事をしようとして、夏希に睨まれた。

 もうそれすらも許されないらしい。


 なので、慌てて両手で口をふさぐ。もう一言も話しませんということを態度で示す。


 この対応は正解だったようで、夏希の表情がすこしだけ和らぎ、満足そうにひとつ頷いた。


「で、悪霊退治の詳細だけど……わかってることはあまり多くない」


 残念そうに言ってから、彼女は急に口をつぐんだ。


「……?」


 どうしたのか問いかけたいけれど、僕はしゃべることを禁止されている。


 黙って見守っていると、夏希はしばらく躊躇ってから、意を決したように口を開く。


「今回の悪霊は、デート中の女性ばかりを狙うって情報がある」


 と言うよりも……と彼女は続ける。


「それ以外に情報はない。だから、私がオトリになっておびき寄せることになったの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ