初仕事1
良く晴れた日曜の朝だった。
目を覚ましてすぐに階段を下り、事務所へ向かう。
「おはようございまーす」
挨拶をしながら事務所の扉を開けると、そこには二人の女性がいた。
「ヤツカちゃん、おはよう~」
そのうちの一人、秋穂さんが笑顔で迎えてくれる。
そしてもう一人のほう。秋穂さんの妹である夏希は……。
「おはよ」
不愛想に短く返事をするだけ。
まともに視線も合わせてくれない彼女は、いつもの制服姿ではなかった。黒いポロシャツに青色のジーンズをはいている。
余っているジーンズの裾を折り返して、ポロシャツの上からは生地の薄い藍色のシャツをはおっていた。
なんとなくだが、ボーイッシュな印象を受ける。
「……なに?」
僕の視線に気づいたのか、夏希がにらんできた。
「なんでもないよ……。私服が、ちょっと珍しいなと思って」
制服姿はよく見ていたが、私服を見るのはこれが初めてかもしれない。
率直な感想を言っただけだったのだが、夏希の反応はよろしくなかった。
「今日、日曜日だから」
「あ、はい……そうですね」
休みの日に制服を着ているのもおかしいか。
「あんまり、じろじろ見ないで」
冷たく言い放ってから、彼女は不満そうに目を細める。
「というか、まだ出ていってなかったんだ?」
「出ていかないよ!? なんで、そんな嫌そうなんだよ……」
ここまであからさまに拒絶されると、泣きたくなってくる。
そんな僕に追い打ちをかけるように、夏希が鋭い視線を向けてきた。
「あなたみたいな色ボケ神がいたら、迷惑だから」
「……」
これには反論できない。
かえでを押し倒したり、事故で着替えをのぞいてしまったり、小鈴を押し倒したり……。
誤解を招くようなことを連発してしまったのだから。
とはいえ、だからといって、ここまではっきりと言わなくてもいいと思う。
そんな僕の思いを感じ取ったのか、秋穂さんが声を上げた。
「夏希ちゃん、ダメよ~。ヤツカちゃんはもう事務所の一員なんだから、仲良くしないと~」
秋穂さんは子どもを叱るように、優しく声をかける。
それに夏希は、ちょっと躊躇いながらも、首を横に振った。
「私はまだ完全に認めたわけじゃないから」
実力は認めるけど、と悔しそうにつぶやいてから、続ける。
「あなたが安全な神とは限らない」
「――」
これも否定はできない。
自分が善人であるという証明なんて、そう簡単にできるはずがない。
信じてくれ、と口にするのが関の山だろう。
僕が返事に困っていると、夏希は興味を失ったように視線を外した。
そんな様子に秋穂さんが困ったような笑みを浮かべる。
「事務所のみんなには仲良くしてほしいんだけど……夏希ちゃんはもっとヤツカちゃんと話し合う時間を作ったほうがいいかもしれないわねぇ」
「無駄だからそんな時間、必要ない」
取り付く島もない。
けれど僕は秋穂さんの意見に賛成だった。
同じ事務所で働く仲間なのだから、できることなら仲良くしていきたい。
とはいえ、ひとつ問題があった。
「僕は基本ここにいるけど、あんまり夏希と合わないんだよなぁ……」
「あなたと違って、私は忙しいから」
「……確かに僕はヒマしてるけど」
にしても、毎回言葉にトゲが入るのはなんとかならないものかな?




