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2人で見た景色13


 僕とかえでの二人は、猫又の少女に教えてもらった場所に来ていた。


「うわぁ! そんな高くないのに景色が広いですね」


 やってきたのは笑運閣門という、この遊園地の入口になっている建物の屋上だった。


 高さは4階ほどだが、周囲の建物が低いので見晴らしはいい。


「あ、スカイツリーもはっきり見えますよ!」


 しばらく楽しそうに周りを眺めていたかえでだったが、ふと小首をかしげる。


「あの、どうして景色のいい場所、だったんですか?」


 僕が猫又にした質問だった。

 一番景色がいい場所を教えてほしい、と。


 そうして提案されたのが、この屋上だった。


「かえでに見せたいものがあったんだよ」


 そう答えて、僕は西の空を指さす。


 促されるまま、かえでがスカイツリーとは反対側になる西へ視線を向けた。


「あ……日が」


「うん、もうすぐ日が沈む」


 あと少しで太陽が地平線に触れる。


 辺りもだいぶ暗くなってきて、建物の明かりや道路の街灯が輝きを放ち始めていた。


 その光景を見て、かえでは慌てていた。


「い、いけません! 私が夕方に外にいるのはまずいですよ……なにか悪いモノを引き寄せちゃうかもしれません」


 夕暮れ時は、あの世とこの世の境目があいまいになると言われている。


 普段ならありえないような現象が起きても、おかしくはない。


 不安そうに、彼女は続ける。


「夜道を帰るのも危険なんです! 何が起こるかわかりません。暗くなる前に帰らないとヤツカさんにも、迷惑をかけちゃいます……」


「……はぁ」


 かえでの言い分に、自然とため息がもれた。


 いつもこうだ。彼女は、自分の身の危険よりも僕や周りへの迷惑を気にしている。


 そんなことでは、いつまで経ってもかえでは気を抜けない。


 周囲に気を使ってばかりでは、何かをゆっくり楽しむこともできないだろう。


 それが僕には腹立たしかった。

 だって――


「言ったはずだよね?」


 困惑する少女に向けて、何度も言ってきた言葉を繰り返す。


「かえでのことは、僕が守るよ」


 だから、そんなに不安そうな顔をしないでほしい。


「逢魔が時が変なモノを呼び寄せても、夜道が危険でも、僕が必ず守ってみせる」


 どんなに強大な敵が現れても、必ず。


「僕のことを信じて、少しは気を抜いてくれると嬉しいかな」


 この言葉にかえでは、はっとしたように息を飲んだ。


「……そうですよね」


 申し訳なさそうに、自分を戒めるように、彼女は大きく頷いた。


「ヤツカさんが隣にいるんだから、大丈夫ですよね」


 安心したような笑顔が、こちらに向けられる。


「やっぱり迷惑はかけちゃうと思いますけど……今日だけは甘えてもいいですか?」


「もちろん」

 力強く返事をする。


 その時、ちょうど太陽が地平線に到達した。


 橙色の光が辺りを満たす。

 雲も少なく、見事な夕日だった。


「すごくキレイです……。私、夕日を見るなんて、久しぶりです」


 感動するように、かえでがつぶやく。


 そして僕の目を見て、続けた。


「あの、えっと……ヤツカさんが迷惑でなければ、なんですけど……」


 ためらうように一瞬だけ視線をそらした彼女は、しかし覚悟を固めるように僕の目を見つめてくる。


「また一緒に、こうして夕日を見てくれますか?」


 彼女の頬に赤みが増しているのは、夕日のせいなのか、あるいは別の理由なのか。


 それはわからないけれど、僕の答えは決まっていた。


「断るわけがないよ。君がそれを望むなら」


 僕たちはしばらくの間、美しい夕日を見つめていた。


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