2人で見た景色4
翌日、土曜日。
僕とかえでは、予定通り二人で浅草に来ていた。
事務所がある上野からは、電車で五分ほど。
ちょっと頑張れば歩いて行くこともできる距離だ。
そうしてやってきた浅草で、かえでは驚きに目を見開いていた。
「わぁあああ! おっきい! この提灯、すっごく大きいです!」
彼女が見ているのは、山門に吊るされた朱色の提灯。
筆字で「雷門」と書かれたそれは、浅草と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべる観光名所だろう。
周囲にはたくさんの人がいて、記念撮影している観光客も多い。
「ヤツカさん、ヤツカさん! あれって、触ってもいいんでしょうか!?」
「盛り上がるのはいいけど、今日の目的はこっちじゃないからね」
「はっ! そうでした! テレビで見たことのある場所だったので、つい……」
照れるように頭をかいて、かえでは気を取り直すようにひとつ頷いた。
「では、行きましょう!」
雷門をくぐり、浅草寺の境内を通り抜けた先に、目的の場所があった。
浅草花やしき。
百五十年以上前からある、日本最古の遊園地だ。
入口まできたところで、かえでの目が期待に輝く。
「私、遊園地って初めてです!」
それはそうだろう。
学校帰りにコンビニに行くのも注意されるくらいなのだから。
「一度でいいから行ってみたいなぁって思ってたので、夢が叶いました。ヤツカさんのおかげですね!」
「いや、チケットをくれたのは秋穂さんだから……」
僕が何かしたわけではない。
しかしこの返事に、かえでは納得できないらしい。
「でもヤツカさんがいなかったら、絶対に来れませんでしたよ! だから、ヤツカさんにはいくら感謝してもし足りません!」
すごい熱意で訴えてくる。
「あ、うん……まぁ、役に立てたならよかったよ」
ここまで言われて、否定を返すことなど僕にはできなかった。
とはいえ、かえではもう僕の返事なんて聞いておらず、入園口に視線をそそいでいる。
「はぁ、楽しみです……!」
夢見るように両手を胸の前で合わせて、うっとりしていたかえでだが、ふと肩が跳ねる。
「あ、でも私の服、大丈夫でしょうか? ヤツカさん! せっかくの遊園地なのに浮いたりしてませんか!?」
「ん? 服……?」
今日のかえでは珍しく私服だ。
白いワンピース姿はさわやかな印象で、アクセントとして青い花の刺繍が小さく施されている。
そのワンピースは、くるぶしまで届くロングスカートで、足元はおしゃれなレディースサンダル。
頭にはつばの広い麦わら帽子をかぶっていて、かわいくデフォルメされたネコ柄のポシェットを斜めがけしている。
高校生にしてはちょっと幼い印象かもしれない。
こういう服が好みなのだろうか?
制服姿でいることが多いから、彼女の私服を見るのはなんだか新鮮だ。
そうして僕がゆっくり観察している間も、かえではちょっとだけ不安そうにしていた。
「私、遊園地にふさわしい服が、いまいちわからなくて……」
スカートの裾をつまんだり、麦わら帽子の位置を直したり、こちらに背中側を見せてきたり、と落ち着きがない。
できることなら、かえでの不安を取り除いてあげたい。
しかし困ったことに、遊園地にふさわしい服なんて僕にもわからなかった。
僕だって遊園地に来たのは初めてなのだから。
ついこの前まで、ど田舎の社に引きこもっていたから、こういう場所には不慣れだ。
「……」
困った挙句になにも言えずにいると、かえでは焦った様子を見せ始める。
「あ、あの……! やっぱり、どこか変ですか!?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
「変なら、はっきり言ってください! ヤツカさんになら、何を言われても大丈夫です!」
「えっと、だから――」
「あ、でもちょっとだけ待ってください! せ、せめて心の準備をさせてください」
彼女は緊張を落ち着けるように、ゆっくりと深呼吸をする。
数回、大きく息を吐いて、意気込むように両手をにぎった。
「も、もう大丈夫です!」
言葉とは真逆に、まだ少し緊張した様子で続ける。
「さぁ、教えてください! ど、どこがおかしいんですか!?」
彼女は不安そうに視線を下げ、スカートをにぎる。
「初めての遊園地でしたし、ヤツカさんも一緒ですし……お洋服選びにも気合が入ってしまって……。でも、逆に空回ってしまったんでしょうか!?」
というか、今の言動が空回っていると思う。
「かえで落ち着いて! 大丈夫、変じゃないから」
「ほ、本当ですか……? 浮かれすぎて、変になってたりは……?」
「しない、しない。普通に可愛いと思う」
素直な感想を述べると、かえではすこし驚いたような表情を浮かべた。
「可愛い、ですか!? えっと、その……あ、ありがとうございます……」
わずかに頬を染めた彼女が、視線をそらす。
とっさに出てきただけの感想で、そういうリアクションをされると困る。




