2人で見た景色1
藤堂霊能事務所で雇ってもらえるようになって、早数日。
僕は来る日も来る日も、事務所の掃除をしていた。
いまは事務机を磨いている。
「ヤツカちゃん、この書類なんだけど、上に運んでおいてくれるかしら~?」
秋穂さんからの指示を受けて思い出す。
僕がしていたのは掃除だけではなかった。
荷物運びやら、事務所の整理など雑用全般を任されている。
「ちょっと書類が多くて困ってたのよ~。男手があるって、ほんと助かるわ~」
嬉しそうに言っている秋穂さんの前には、書類の山がいくつも積まれていた。
「いや、それは男とか女とか関係ない量だと思うんですけど……」
まぁ、頼まれたものはやるけれど。
やるけれども、しかし――
「なんか、ここに来てから雑用ばっかりですね」
「お仕事が来ないから仕方ないわよ~」
なぜか笑顔で答えてから、言ったでしょ~、と秋穂さんは続けた。
「週に一回、依頼があればいい方なのよ~」
「そういえば、言ってましたね……」
「だから、しばらくは雑務とか、私たちのお手伝いが仕事になるわねぇ」
「まぁ、もらえる仕事は喜んで受けますよ」
僕は出稼ぎに来たのだから。
雑用だろうと、仕事がもらえるだけありがたい。
「さすがヤツカちゃんね~。じゃあ、こっちの資料も運んでおいてくれる?」
秋穂さんが手で示した先には、大量の本が積まれていた。
分厚い本が百冊以上はありそうだ。
「……わかりました。資料と一緒に運んでおきますよ」
「助かるわ~。ここは女の子ばっかりだから、男の人がいると頼りになるわね~」
確かにこの事務所は女性が多い。
というか、紹介された人は僕以外、全員女性だ。しかもまだ幼い子も混じっている。
小鈴やミヤビのような小さい女の子に、これだけの荷物を運ばせるわけにはいかない。
ここは僕が頑張るしかないだろう。
「やるか」
気合いを込めるように小さくつぶやいてから、本に手を伸ばす。
その時だった。事務所の扉が勢いよく開かれる。
「ただいま帰りました!」
そうして入ってきたのは、橙色のブレザーを着たかえでだった。
「かえでちゃん、おかえりなさい~」
「おかえり」
秋穂さんに続いて応えたあとに、ふと彼女の笑顔に目が行った。
「なんか、いつもよりご機嫌だね」
「あ、わかりますか?」
嬉しそうに言って、かえではスキップでもするように小走りで僕の前までやってくる。
「ヤツカさんヤツカさん、聞いてください! 私、ついにやってしまいましたよ!」
「やった……って、なにを?」
「ふっふっふ、驚かないでくださいよ?」
焦らすように笑って、彼女はカバンからあるものを取り出した。
「初めて、学校帰りに買い食いをしてしまったんです!」
自慢げに掲げられたのは、チョコレート菓子の箱だった。包装が破かれて、食べかけであることがわかる。
かえでは実に誇らしげなのだが……。
「買い食い、したことなかったんだ?」
「はい! いつもまっすぐ帰ってしまうので」
今時の女子高生とは思えない発言だ。
「今日は葉菜さんと一緒に帰ったので……なんと! コンビニへの寄り道に誘われてしまいました!」
「……」
すんごい大事のように語っているけれど、学校帰りにコンビニに行くくらいなら、普通にありそうだが……。
とはいえ、かえでがあまりにも嬉しそうに話してくるから、否定的なことも言えない。
「寄り道するのって憧れてたんです! 誘ってくれた葉菜さんにはいくら感謝しても足りません!」
葉菜は、かえでのクラスメイトだ。
霊現象で悩んでいて、かえでに相談してきたので、僕も手伝って解決した。
「葉菜とは、よく遊ぶの?」
「はい! あれから、教室でもよく話しかけてくれるようになりました!」
なるほど、この前の一件からかえでと葉菜は友好な関係を築けているようだ。
僕にもたまにお菓子を持ってきてくれるし、本当にいい子だと思う。
「葉菜さんがいなかったら、コンビニに寄り道するなんて一生なかったと思います!」
また、大げさな……。




