かえでからの相談15
「おはよう、夜里さん、ヤツカさん」
「え……え!? 葉菜さん、私たちのこと覚えてるんですか?」
「うん。秋穂さんに会わせてもらった時にお願いしたんだ。せっかく二人と知り合いになれたのに、忘れたくなくって」
あっさりと言ってくれたが、ずいぶんと大胆なことをする。
かえでも驚き以上に、心配そうな様子だ。
「でも、あの、秋穂さんから聞きませんでしたか? 昨日のことを覚えてると、悪霊が寄ってくるかもしれないんですよ!」
問題はそれだ。
昨日のウサギは安全な霊だったが、次もそうとは限らない。
だというのに、葉菜は平然と笑顔を返してきた。
「その時は、またヤツカさんが守ってくれるでしょ?」
「え? 僕!?」
そんな理由で納得できるはずがない。
「なるほど、そうですね! ヤツカさんがいれば安心です!」
「かえでまで!?」
まさかの賛同者に驚いていると、葉菜が悲しそうな目を向けてきた、
「助けてくれないの?」
「それはもちろん助けるけどさ」
そういう問題ではないだろう。
「うん、ヤツカさんならそう言ってくれると思ってた」
けれど、葉菜は嬉しそうに笑っている。
「昨日も本当に助かったんだよ」
「いや――」
昨日の件では、大したことはしていない。
そう返そうとしていたのだが、僕の言葉を遮るように葉菜がカバンから何かを取り出した。
「これ、昨日のお礼。受け取ってくれる?」
差し出されたものは紙袋だった。
「え? 僕に……?」
「うん、マドレーヌ焼いたんだ」
「お菓子!?」
しかも手作り?
「ほんとにもらっていいの!?」
「う、うん、いいけど……どうしたの? 目の色が変わってるよ?」
「あぁ、ごめん。お菓子なんて、ここ数年食べてなかったから」
その日の食事にも困る貧乏生活をしていたんだ。
こんな娯楽品を口にすることはなかった。
「そうなんだ……じゃあ、たまに焼いてこようか?」
「君は神か!」
「あはは、神様はヤツカさんのほうでしょ」
楽しそうに笑っていた葉菜は、ふと安心したような微笑みを向けてきた。
「よかった。ちゃんとお礼になったみたいで。どうしたらお返しができるかなって、ずっと悩んでたんだ」
「悩むって……大げさだよ。僕は大したことはしてないんだから」
「そんなことないよ。怖くて眠れなくて、大変だったんだから」
「僕はあたり前のことをしただけだよ」
人を守る神様だから、人を助けるのは当然だ。
「それでも、私は嬉しかったんだよ」
「……そこまで感謝されるようなことはしてないんだけど」
「ううん、私にとっては違うよ」
葉菜は、だってヤツカさんが言ったんだよ、と続けた。
「助けた人よりも、助けられた人のほうが、強く印象に残すものだって」
「――」
昨日の僕の言葉だ。
なるほど、それを言われたら降参だ。
「わかった。じゃあ、ありがたく感謝されるよ」
「うん、そうして!」
満足そうに頷くと、葉菜はかえでに向き直った。
「夜里さん、制服ってことは、今日は学校行けるんだよね?」
「あ、はい! これから登校するところでした」
「一緒に行ってもいいかな?」
「わぁ! もちろんです!」
二人の少女は、これまでも長い付き合いであったかのように、親しみを込めて微笑みあっていた。
「ヤツカさん、いってきます!」
「うん、いってらっしゃい」
学校に向かう二つの背中を見送る。
昨日の僕の働きが、この光景に結びついたのだとしたら、最高の結果だろう。
僕は満ち足りた思いで、二人の姿が見えなくなるまで見守っていた。




