神様雇います4
「……っ、うぅ」
意識が戻ってきて、最初にやってきた感覚は頬の痛みだった。
どれくらいの時間がたったのかわからないが、まだとてつもない痛みが残っている。
それだけ夏希の強さが理解できる。
生きてて、よかった。
「……ん?」
ほっとして心に余裕ができてくると、痛み以外の感覚がした。
後頭部に、柔らかな感触が。
枕やクッションとも違う、ふにっとした柔らかさ。これはいったい……?
「あら~、目が覚めたみたいね」
疑問に思っていると、大人の女性の声がすぐ近くから聞こえてきた。
まさか? そう思って目を開ける。
「――っ!」
まず視界に飛び込んできたのは、大きな双丘だった。その先から、メガネをかけた女性の顔がのぞき込んでくる。
栗色の長髪はウェーブがかかっており、顔には薄く化粧がされていて、落ち着いた女性という印象を受ける。
化粧を抜きにしても整った顔だと思う。しかし、それ以上のインパクトが、最初に視認した大きな双丘だ。
ブラウスを押し上げている二つの膨らみ。
それはもうメロンとかスイカと例えても、何も問題がない。
圧倒的な母性を感じる。
特に下から見上げる形になっているので、その大きさがよりはっきり理解できた。
あまりのサイズ感に圧倒されてしまうが、それよりも気になることがあった。
下から見上げている、という事実だ。
普通この角度から女性を見ることなどありえないだろう。
そして、さきほどから後頭部を包む、柔らかな感触……。
もはや答えは明白だった。
僕は今、膝枕をされている!?
「すみませんっ!」
なぜか謝ってから、飛び起きた。
僕に膝枕していた女性は、名残惜しそうに太ももをなでて、
「あらあら、もっとゆっくりしていってもよかったのに~」
意味深にも見える笑みを返してきた。
正直、反応に困る。
戸惑う僕に、女性は自分の右頬に触れてみせる。
「安静にしてないと、痛みが引かないわよ?」
「……っ!」
指摘されて、頬の痛みを思い出した。
急に動いたせいか、痛みが増したような気さえする。
表情をゆがめていると、視界の端から濡れタオルが差し出された。
視線を向けると、タオルを差し出してきたのは小さな女の子であることがわかった。
外見は小学校高学年くらいで、古風なおかっぱ頭、服装も古めかしく赤い着物を身にまとっている。
「……んっ」
受け取れというように、手を突き出してくる。
「あ、ありがとう……」
濡れタオルを受け取り、頬に押し当てる。冷たい感触が気持ちいい。
「……ん」
僕の動きを見守っていた女の子は、子どもらしい笑顔で頷くと、満足そうに離れていった。
女の子の動きを追いつつ、周囲にも目を向ける。
どうやら、どこかの室内らしい。
簡素な事務所という感じだ。
大きな窓に、ひとつの立派な机。ほかには事務員用と思われる簡易な机が並んでいる。
僕が寝かされていたのは、応接用らしきソファの上だった。
「えっと……」
どうして僕はこんなところにいるのだろう?
疑問が沸き起こると同時に、答えをくれるであろう人物が近づいてきた。
「あの……大丈夫ですか?」
さきほど助けた女の子、かえでだ。