かえでからの相談10
「いった……!」
と、反射的に声がもれたが、大した痛みではなかった。
あの白い影は、さほど戦闘力はないらしい。
これなら退治することも可能だろう。
しかし……。
「強くはないけど、速すぎる!?」
白い影は、壁や天井などを蹴って、部屋中を高速で跳び回っていた。
あまりの素早さに姿がはっきりと見えず、まだ正体がわからない。
「きゃあっ!」
葉菜が悲鳴を上げる。
影が近くを跳ねていったことに驚いただけのようだが、いつ葉菜やかえでに被害が出るかわからない。
僕にとっては大した攻撃ではなくても、彼女たちが受けたらタダでは済まないだろう。
「かえでと葉菜は、なるべく壁際でじっとしてて。ここは僕が!」
声をかけつつ、足を踏み出す。
二人を守れる位置に移動しておいた方がいい。何かあっては困る。
だから、二人がいるベッドに近づこうとしたのだが、その一歩を出した瞬間だった。
――■■ッ!
「いたっ!」
顔面を再び白い影が襲う。
しかも、今度の攻撃は一度きりではなかった。
僕に体当たりをして、その反動でいったん遠ざかってから、壁や天井を蹴って再び僕に体当たりをしてくる。
顔だけではなく胴体、腕、足と次々と攻撃が襲う。
「っ……いてっ……いてて!」
一発一発は軽いものだけど、こう立て続けだと地味に効いてくる。
しかも四方八方から不意打ちにようにぶつかってくるから、動きにくい。
かえでたちのところに行きたいのだが、なかなか進めない。
「ヤツカさん、大丈夫ですか!?」
心配そうなかえでの声。
そちらに目を向けると、彼女はベッドの上に避難して葉菜に寄り添っていた。
「……ん?」
二人の様子を見て、ふと疑問が残った。
なぜか、白い影は僕にしか攻撃していなかった。
かえでと葉菜がいるベッドには、一切踏み入らない。
僕に攻撃する前の助走のためでも、そちらに近づくことはなかった。
どうしてなのかはわからない。
しかし二人に危険が及ばないのであれば、こちらに集中できる。
「とりあえず……うろちょろされると面倒だ」
まずは動きを封じよう。
方法は簡単に思いつく。
相手は小型で軽い。なら、捕まえてしまえばいい。
動きは速いが、まったく反応できないほどではない。
「――そこだ!」
迫る影に、手を伸ばす。しかし――
「痛っ!」
腕に痛みが走った。
「そうだった……っ!」
僕はいま、朝からの全身痛で激しい運動ができない。
「いつもなら捕まえられるけど」
この痛みの中で、あれを捕らえるほどの動きはできそうにない。
もたもたしている間も、白い影は体当たりを繰り返していて……。
「これは……地味にピンチかも」
苦笑いがもれる。
一方的に攻撃されていて、こちらには対抗する手段がない。これは、笑うしかない。
「ヤツカさん、大丈夫ですか!?」
そこでふと、かえでが声を上げた。
不安そうな顔でこちらを見つめている。
「……よくないね」
彼女に聞こえないようにつぶやく。
そう、僕の状況はよくない。
なぜなら、守ると約束した相手を心配させているのだから。
そんなことでは約束を果たせるはずもない。
「仕方ない……やろうか」
左の腰に、両手をかまえる。
まるでこれから刀を抜こうとするように。




