かえでからの相談6
ドキドキする気持ちを抑えながら観察を終え、視線を二人に戻す。
「どこも異常はないね」
「うそっ!?」
信じられないといった様子の葉菜に、ダメ押しで付け加える。
「この部屋に霊はいないよ。悪いモノの気配や痕跡もないから、悪霊かなにかがいた可能性は低いと思う」
「でも、本当なんだよ! 毎晩、何かが部屋に来てて……」
「もちろん、ウソを言ってるとは思ってないよ」
ただ、痕跡がないというだけだ。
霊には、そんなものなんの意味もない。
そういうことを偽装できるモノだっているだろうから。
僕の言葉に葉菜は、わずかに驚いて、
「そ、そっか……ありがと」
なぜか頬を赤く染めた。
「え、いや……感謝されるようなことは言ってないけど?」
「ううん。信じてくれたのがうれしくて」
「……?」
いまいちわからないが、彼女にとっては大事なことらしい。
「とりあえず詳しい話を聞かせてもらっていいかな?」
まずは本題を進めようと、話を促す。
「うん。それがね……」
葉菜はまずタンスを手で示した。
「朝起きたら、昨日まであったはずの下着が消えてたんだ」
「下着、ね」
それだけでは霊の仕業とは思えない。
あたり前だが、葉菜も最初はそんな想像はしなかったようだ。
「泥棒でも入ったのかと思って怖かったんだけど……うちの両親、防犯意識が高いから泥棒が入ったらすぐに通報されるようになってるの。でも、それもなくて」
都内でこんなに立派な一軒家に住むほどなのだから、泥棒や強盗は人一倍警戒しているのだろう。
「気のせいかな、とも思ったんだけど、それから毎日下着が少しずつなくなっていったから」
勘違いではないと確信した、と。
「怖くなって、夜あんまり寝付けなくなっちゃって」
なかなか寝付けない深夜に物音がしたのだと、彼女は語る。
「やっぱり泥棒、って思って……そっと音の方を見たら……」
タンスの前に白い影がいた。
「ぼやーっとしてて、形はよくわからなかったんだけどね。サッカーボールくらいの大きさで。一番下のタンスを開けて、その……し、下着を取り出してたの」
「なるほど、一番下に……」
自然と、タンスの一段目に視線を向いていた。
「ちょっと! へ、変な想像とかしないでよ!」
慌てて僕の視界を遮るように立ちふさがる葉菜。
「いや、誤解だ! 変なことは考えてないって。その白い影のことを考えてただけで」
「ほんとかなぁ……?」
未だに信頼が薄い。泣きたくなってくる。
「と、とにかく、その白い霊を見て、かえでに相談したわけか」
「うん。パパとママにも相談したんだけど、信じてくれなくて……」
そう答える彼女は、すこし悲しそうだった。
「――あぁ、そうか」
ついさきほどのやり取りが思い出される。
信じてくれたのがうれしい、と彼女は言った。
最も信じてもらいたくて、助けてほしい存在である両親が取り合ってくれなかったのだ。
話をちゃんと聞いてくれただけでも、救われた気分になれたのかもしれない。
とはいえ、両親の反応も仕方ないけれど。霊の存在を信じている人間なんて、ほとんどいない。
だから、問題が起きていても誰も対処できない。
結果、最悪の事態になることも……。
そうならないためにも、僕が頑張るしかない。
「他に、何か変わったことは?」
すこしでも情報を得るために、追加で問う。
葉菜は、一切迷うことなく返事をした。
「これなんだけど……」
そう言って取り出されたのは、小さな布袋だった。片手で包み込めてしまうくらいの大きさの巾着袋。
それが、いくつも並んでいる。
ひとつひとつ色が違っていて、実に鮮やかだ。
「かわいい袋だけど……これは?」
「タンスの中に入ってたんだ。なくなった下着の代わりみたいに」
下着が消えて、その代わりに置かれていた?




