かえでからの相談2
「……」
霊能事務所の大きな仕事。それはかなり危険な気配がした。
妖怪大戦争とか、そういうレベルの。
とはいえ、ここで引き下がるわけにはいかない。
「なんでも言ってくださいよ。やっと働き口を見つけたんで、頑張ります」
そう、僕はお金を稼がないといけない。貧乏生活から抜け出すために!
そのためなら、どんな仕事だって受けよう。
「助かるわ~。でも、今日はお仕事がないから、ゆっくり体を休めてね」
優しく言ってから、秋穂さんはふと思い出したように付け足した。
「あ~、ヤツカちゃんの痛みは体じゃなくて、霊体の問題だから~……休んでいるよりは、体を動かして馴染ませたほうが良いわね」
「そういうものですか?」
こんな痛みは初めてなので、いまいちわからない。
そんな僕に、秋穂さんは安心させるような笑みを浮かべた。
「体がビックリしている状態なのよ~。全身に『本来の動きはこれだよ~』って教えてあげれば、段々治っていくわ」
だから、と彼女は事務所の扉を手で示した。
「散歩に行ってくるといいと思うわ~」
「はぁ……散歩ですか?」
「しばらくここで生活するんだし、周りのことを知る機会にもなるでしょ~?」
確かに理にはかなってる。
「そうですね。じっとしてても退屈ですし、ちょっと外を歩いてきます」
「いってらっしゃ~い。気を付けてね~」
秋穂さんに見送られて事務所を出た。
「ぐおぉぉおおお……」
そこから一階に下りるのに、またしてもすんごい時間がかかった。
段差が超きつい。一段下りるごとに、とてつもない激痛が全身を襲う。
「……はぁ……はぁ、やっと下りられた」
これだけで満身創痍だ。
もう帰ろうかな、とさえ思う。
「でも、だいぶ体が動くようになったかな」
秋穂さんの言う通りだった。
何度も激痛に耐えたおかげか、すでにかなり回復していた。
痛みさえ我慢すれば普通に動くこともできる。
「これなら、散歩くらいはできそうだ」
とはいえ、どこに行ったものか?
藤堂霊能事務所があるのは上野の高架沿いなのだが、僕はこの辺りのことを何も知らない。
正直、道もよくわかってない。
「目的もなく歩きまわるのも、もったいない気がするし……」
どうしたものかな?
そう頭を悩ませていた時だった。僕を呼ぶ声がしたのは。
「ヤツカさーん! ちょうどいい所に!」
聞き覚えのある声に目を向けると、かえでがこちらに走ってきていた。
制服姿で、手には学生カバンが。
「えっと……学校からの帰り?」
「はい! 近所の高校に通っているんです!」
元気に答えてから、彼女はちょっとだけ照れたように頭をかいた。
「たまにしか行けてないんですけどね」
「ん? そうなの?」
「ほら私、体質の問題があるので。学校に行くのも、かなり準備がいるんです」
「あぁ、そうか。学校って、悪い霊も多いだろうし」
たくさんの人が集まる場所では、様々な感情が行きかう。その中には、恨みとか妬みとか、良くない感情がどうしても混ざってしまう。
悪霊は、そういう感情に寄せられて集まってくる。
学校こそ、まさにそういう場所だろう。
「危険だってわかってるのに、よく通えるね」
「楽しいことがいっぱいありますから!」
明るく言い放って、彼女はふと首を傾げた。
「ヤツカさんは、どこかにお出かけですか?」
「いや……特に目的はなくて。適当に散歩でもしようかなぁ、と」
「なら、ちょうどよかったです!」
彼女は嬉しそうに手を合わせて、さらに一歩接近してきた。
「あの、お願いしたいことがあるんです!」




