かえでからの相談1
都心での住む場所は、ご厚意から用意してもらえた。
そして次は、
「ついに仕事ゲット!」
昨日、どちらが先に秋穂さんからの課題を達成するか、という勝負を夏希とした。
それに勝った結果、僕は正式に藤堂霊能事務所で雇ってもらえることになったのだ。
お賽銭が入らないから出稼ぎにきて、ついに仕事を手に入れた。
これは喜ばずにはいられない。
今日から初仕事だと思うと、気合いが入ってしまう。けれども……
「ぐ、おぉぉぉ……!」
全身が痛い。筋肉痛のような痛みに、各所が悲鳴を上げている。
この痛みのせいで、起きてから数時間は布団から出られなかった。
なんとか動けるようになったので、もだえ苦しみながら、建物上階の居住スペースから二階の事務所に移動する。
「ヤツカちゃんどうしたの~? 生まれたての小鹿みたいになってるわよ?」
出迎えてくれた秋穂さんが、僕の様子に小首をかしげる。
いま事務所にいるのは彼女だけのようだ。
「いや、なんかわかんないんですけど……朝起きたときから、全身が痛くて」
「あらあら、大変ね~。なにかの病気かしら~?」
困ったような笑顔で、考え事をするように大きな胸の前で両手を合わせる。
が、その手がすぐにパッと開かれた。
「あっ、それはあれね。昨日のことが原因じゃないかしら~」
「昨日……? そんな特別なことはなかったと思いますけど?」
思い返してみるが、原因らしきものは思い当たらない。
そんな僕に、秋穂さんは確信を持って、告げた。
「ほら~、かえでちゃんの力を使ったんでしょ?」
「……はい、流れで」
かえでは超依り代体質。神や霊などの力を増幅することができる。
地下の悪霊に対抗するために、彼女は僕を強化してくれた。
「全力以上の力を使ったなら、そうなるのはあたり前よ~」
「あぁ、なるほど」
百パーセントを越えれば、体はボロボロになる。
筋肉痛と同じだ。
「やっぱりかえでの力には、頼らないほうがいいな」
毎回こうなるのでは、身が持たない。
すこし体を動かしただけで、
「痛たたっ!」
全身を激痛が走り回る。
ゆっくり動けば大丈夫なのだが、日常生活に支障が出るレベルだ。
これでは、しばらくまともに動けないだろう。
「秋穂さん、すみません……そんなわけなので、今日は仕事を手伝えそうにないです」
せっかくの初出勤なのに、申し訳ない。
そんな気持ちで頭を下げた僕に、けれど秋穂さんはきょとんとした顔を返した。
「あら~、気にしなくていいのよ。そもそも、あんまりお仕事来ないから」
「え? そうなんですか?」
「週に一度あれば、いいほうかしら~?」
「ほんとに少ないですね」
「だって霊能事務所だもの~。今時、こういう所に来るお客さんは少ないわ」
確かに、霊を信じる人はどんどん減っているだろう。
僕だって、信仰心が薄れてお賽銭がなくなったから、出稼ぎに来たわけだし。
「だから~、こんな時間になっても、誰もヤツカちゃんを起こしに行かなかったのよ~」
「なるほど……」
僕が全身の痛みに悶えている間に、昼はとっくに過ぎて、もうすぐ夕方だ。
従業員になった僕が、この時間になっても呼ばれなかった理由は、仕事がないから。実にわかりやすい。
「そんな状態で、やっていけるんですか?」
「たまに大口のお仕事が来るから、なんとかなってるわ~」
秋穂さんは、心底嬉しそうな笑みを向けてきた。
「次に大きなお仕事が入ったら、ヤツカちゃんにも手伝ってもらうわね~」




