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地下倉庫の悪霊15


「とにかく、たまには倉庫から出たらどうだ? すこしは気晴らしになると思うけど」


「どこにいるかは、ボクの勝手……ここから出たくない」


 悪霊の少女は頑なに意見を変えないつもりのようだ。


 だけど、僕も譲る気はない。


「そう言わずに。騙されたと思って」


 言いつのる僕を、少女は怪訝そうな顔で見上げてくる。


「なんで、ボクのことに口出しするの? 関係ないはずなのに……」


 いや、関係ある。


「僕は人を守る神様だ。君も昔は人間として生きていたんだろ?」


 だったら、僕は彼女のことを放っておけない。


「君みたいな可愛い女の子が、強い恨みを持ったままなんて良くないからね」


「か、かわいい……っ!?」


 悪霊の少女は驚いたように、ビクンと肩を震わせるとあちこちに視線を泳がせた。


「ボクは悪霊なのに……な、なに言ってるの……」


「悪霊とか関係ないだろ。僕は事実を言っただけだ」


 人であるのなら、死後であろうと守ってあげたい。これは僕という神の宿命みたいなものだ。


「じ、事実って……それって、つまり……」


 なぜか悪霊の少女が取り乱している。

 僕、なにか変なことを言っただろうか?


 不思議に思っていると、彼女は気持ちを落ち着かせるように大きく呼吸する。


 何度か深呼吸してから、短く息を吐いた。


「あ、あなたがどんな神様かなんて、知らない……」


 少女はうつむいて、冷たく言い放つ。


「……ダメだったか」


 どうやら僕の言葉は届かなかったらしい。


 まぁ、あたり前と言えばあたり前だ。

 初めて会った僕になにを言われても、他人の言葉でしかないのだから。


「ボクには、ここしかないの」


 悪霊はのそりと立ち上がると、再び倉庫の中へ入っていく。


「……」


 横をすれ違う彼女に、僕はもう何もしなかった。


 さすがに嫌がることをずっとやり続けるのも申し訳ない。ひとまず今回は僕のほうが諦めよう。


 そうして無言で彼女を見送っていると、逆に向こうが口を開いた。


「ボクはここから出ないけど、あなたはたまに遊びにきてもいい」


 一方的に言って、彼女は倉庫の奥へと消えていった。


「……ん?」

 最後のは何だったのだろう?


 また戦いたいとか、そういうことなのか?

 そこまで好戦的な印象はなかったけれど。


 疑問を頭を悩ませていると、かえでが駆け寄ってきた。


「ヤツカさん、すごいです! 悪霊さんを圧倒しちゃってましたよ!」


 かえでの後ろでは、夏希が倉庫の奥を指さしている。


「ほら、早く契約書取ってくれば?」


「ん? この隙に、先に取ればそっちの勝ちだったんじゃないの?」


「私はそういう卑怯なことはしない。今回はあなたの圧勝だったから……」


 強いな、と素直に感じた。

 負けを認められるのは、心が強い証拠だ。


「じゃあ、遠慮なく」


 倉庫の中に再び踏み入り、黒い金庫から契約書を回収した。


 不思議なことに、さきほどのように怨念が出てくることはなかった。


 僕の力はもう元に戻っているから、怨念を出せるはずなのに。


 ムリヤリ出したせいで、弱っているのだろうか? だとしたら悪いことをした。


「まぁ、ともかくこれで秋穂さんからの課題は達成か」


 あとは地上に戻るだけだ。



「あらあら~、ヤツカちゃんなら大丈夫だと思っていたけど~……」


 僕たちから契約書と報告を受け取った秋穂さんが、なぜか嬉しそうに微笑む。


「想像以上の結果になったみたいね~」


「えっと……どういう意味ですか?」


「あら? もしかして、ヤツカちゃんわかってないの~?」


 何をだろう?

 秋穂さんが言っていることが理解できない。


 本気で戸惑っていると、秋穂さんの笑顔がすこしだけ凍った。


「ヤツカちゃん、私はね~女の敵は許さないわよ~」


「なんで急にそんな話になるんですか!?」


 どうやら秋穂さんを怒らせてしまったらしい。


 結局、その理由は誰も教えてくれなかった。


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