地下倉庫の悪霊13
「じゃ、じゃあ、触りますね……」
少しためらいながら、彼女が右手を近づける。
そうして指先が触れた。
「――っ!」
まただ。先程と同じ、ピリッと痺れるような感覚。
「ごめんなさい! ……痛かったですか?」
僕の反応に、彼女は不安そうな目で見上げてきた。
「いや、大丈夫。そのまま続けて」
「は、はい……」
彼女の手が這うように進んでいく。
指先から指全体、そうして手のひらまで届き、彼女の滑らかな肌の感触がしっかり伝わってくる。
さらに追い打ちをかけるように、左手もそえられた。
両手でしっかりと僕を包み込む。
「あの……どうですか? 上手にできてますか?」
「あぁ、すごいよ」
力が溢れてくる。
両手が触れただけで、ここまで力が強くなるなんて。
「これなら、行ける」
奥へ進むため、一歩を踏み出した。
「――入ッテクルナッッ!!」
さっきまで警戒していた怨念たちが、狂ったように動き出した。
一斉に飛び出してくる。
たったの一体でもかなりの脅威だった怨念が、四方八方から襲ってくる。
「だけど――」
今の僕には関係ない。
直刀を横に薙ぐ。
迫りくる怨念たちの方向へ、軽くなでるように。
「――出テイケ……出テ……テ……ッ!」
それだけで、最も近くにいた怨念数体があっさりと消滅した。
「やりました!」
「これなら、なんとか進める」
一歩、倉庫の奥へ踏み出す。
「――憎イ憎イッッ! 入ッテルナァ!」
しかしすぐに次の怨念が集まってきた。
再び直刀を振るい、怨念がいなくなってから歩みを進める。そうしてまた怨念が集まってきて……。
これを繰り返すことで、一歩ずつだが着実に奥へ進んでいく。
「――出テケ! ココハ、ボクノ場所ダッ!」
怨念に焦りが感じられた。
だが、それで相手が強くなるわけではない。
直刀を振るい、敵をなぎ払う。
再び足を前に。
「――来ルナッ! 憎イニクイッッ!」
確実に目的である契約書には近づいている。
「――出テイケッ、憎イ出テイケ憎イ出テ憎憎憎ッッ!」
けれど……
「――憎イッッッ!!」
「あぁ、うるさいなぁ」
怨念の声は、本体である悪霊の声だろう。それが僕をひどく不快にさせる。
「もっと力があれば、手っ取り早いんだけど……」
誰に向けたわけでもない言葉を、しかしそばにいるかえでは聞き逃さなかった。
「も、もっと……ですか?」
「え、いや充分だよ。今のままでも前に進めてるし」
「いえ! ヤツカさんのためなら頑張れます! こ、こういうのはどうでしょう?」
どういうの、と僕が聞くよりも早く、かえでが動いていた。
「えいっ!」
かえでの体が正面に来ていた。そして両腕が僕の首に回される。
「これは……!?」
もしかして……いや、もしかしなくても、かえでに抱きつかれている!?
「かえで……なにを!?」
「こうすれば、もっと力が強くなるかもしれません……!」
触れている面積が大きくなれば、それだけ力が増す、と?
単純な発想だが、あながち間違っていないようだった。
「全身がピリピリする……」
さきほどまでは手だけだったが、力がこみ上げてくる感覚が全身を包んでいた。
「これなら!」
手にしている直刀に力を込める。
瞬間、フラッシュをたいたように、激しい光が放たれた。
「ま、まぶしいです……!」
「なに、この光!?」
二人の少女が困惑している間にも光は収まり、倉庫は元の明るさに戻っていた。
まぶしそうに目を細めていた夏希が、驚きに目を見開く。
「ぜんぶ……消えてる……!?」
倉庫には、もう怨念は残っていなかった。




