地下倉庫の悪霊10
夏希がドアノブに手をかける。
「かえで、注意してね」
僕には何も言わず、夏希が鉄製の扉を引き開ける。扉の先は、
「……普通だ」
普通のいわゆる倉庫だった。
段ボールが積まれ、いくつかの棚や書物の山、用途不明の道具などたくさんのものであふれている。
嫌な空気に満ちているものの、見た目はいたって普通だ。
「本当に、危険なところなのか?」
「だから言ったでしょ。倉庫に入ったらわかる、って」
夏希は集中するように短く息を吐くと、倉庫の中へ一歩を踏み出した。
――■■■■■■ッッ!!!
途端、声になっていない大絶叫が倉庫全体を揺らした。
さらに変化はそれだけではなかった。
倉庫のいたるところから黒い煙が立ち込める。影が飛び出してきたような煙だ。一目でよくないモノであることがわかった。ケガレに非常に近い。
「これは……?」
「悪霊から漏れ出た怨念。これを操って攻撃してくるの」
秋穂さんは悪霊の本体は動かないと話していたが、なるほどそういう方法で危害を加えてくるわけか。
その怨念はケガレの時と同様に集まり、固まり、人の形を形成していく。
最初に形を成した怨念が、夏希に迫る。
「死ねぇ!」
しかしそこは夏希。即座に反応して、迎撃に移っていた。
腰を落とし、すさまじい力が込められた拳が繰り出される。
僕を何度も気絶させ、ケガレも一撃で霧散させた夏希のパンチ。
それを怨念は、
「――アァ、ニクイ……憎イ、憎イニクイ憎イッ!」
あっさりと受け止めていた。
「このっ!」
夏希が立て続けに蹴りを放つ。
「――ッッ!」
これはクリーンヒットだった。蹴りでひるんだ怨念に、夏希がたたみ掛ける。
「さっさとくたばれっ!」
一発一発が全力のパンチが三発。
それらすべてを受けて、やっと怨念は消えていった。
「夏希が一発で倒せないのか……?」
などと悠長に分析していた時だ。
「――出テイケッ!」
「ヤツカさん、危ないです!」
恨みのこもった声と、かえでの注意。
気づけば、近くに別の怨念が接近していた。
「かえで、下がって!」
とっさに腰の手を構え、抜刀する。
何もなかったところから直刀が出現し、それを怨念に向けて振り放つ。だが……
「――憎イッッ!」
「素手で受け止めた!?」
僕の斬撃が、手のひらで受け止められていた。
ただの怨念のはずなのに、直刀の光を受けても弱まる気配がない。
思っていたよりも強い。操っている怨念でこの強さなら、本体はどれほどの力を持っているのか?
「ヤ、ヤツカさん……」
心配そうに見つめてくるかえで。
「自信がないなら、かえでのためにもさっさと戻って」
冷たく言い放つ夏希。
そして怨念は、僕の直刀を受け止めた手を高々と振り上げる。攻撃を繰り出そうとするように。
「――出テイケッッ!!」
とっさに直刀を構えた。
直後にとんでもない重量が襲ってきた。
ただ腕を振り下ろしただけなのに、なんて攻撃力だ。
ふと、秋穂さんの言葉が思い出された。
「なにが、うっかり倒しちゃうかもしれない……だよ。こんなの本気で戦うレベルじゃないか」
「――ニクイッ出テイケッッ!」
怨念がまた腕を振り上げる。
またあの攻撃を喰らうのは、なかなかに辛い。
「でも――」
僕は直刀の柄を握りなおした。
「ちょっと本気を出せば倒せる」
少しだけ力を入れて、斬りかかる。
怨念が直刀を受け止めようと、手を出した。けれど――
「ムダだよ」
直刀はその手ごと、怨念の胴体を両断した。
「――オォオオオオォォ!」
苦悶の声をもらしながら、怨念が霧散していく。
「わぁ、ヤツカさん!」
「すごい……一撃で?」
かえでと夏希の声が聞こえる。けれど、そちらに目を向ける余裕はない。
「――出テイケッ!」
すでに次の怨念が出現していた。




