神様雇います2
――■■■■■!
声にならない雄たけびが、空気を震わせる。
「悪霊かなにかかな……?」
僕の言葉に少女が振り返った。
驚きに目を見開いて、すぐに口を開ける。
「あ……あの! 危ないです、逃げてください!」
「……」
いや、どう見ても危ないのは彼女のほうだろう。
あの影に狙われているようだ。
どういう経緯でそうなったのかは知らないが、出くわしてしまったからには放っておけない。
「これも何かの縁だね。ここは僕がなんとかするから、下がってて」
少女を背にかばうように、進み出る。
――■■■■■ッッ!
僕の行動に、黒い影の獣が再び威嚇の声をあげる。
普通の人間だったら圧倒されているだろう。
現に、僕の背後にいる少女は恐怖からその場に座り込んでしまった。
「……に、逃げてください! 私のせいで、あなたがケガをしたら……」
「心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫だよ」
そう、どんな化け物が相手でも、僕には関係ない。
左手を腰に添え、右手も左手の横に持っていく。まるで、剣の柄と鞘を握るように。
今の僕は、周囲になじむために現代人の恰好をしているから丸腰だ。けれど、神にそんなことは関係ない。
「ふぅ……」
短く息を吐いて集中する。
両手に確かな手ごたえが生まれた。
そのまま剣を抜くように、ゆっくりと右手を上げていく。
まばゆい光を放ちながら、純白の直刀が姿を現した。
――■■■ッ!
影の獣が警戒するように、後退った。
しかし、すでに手遅れだ。
直刀から放たれている光を浴びて、影の獣がビクッと震える。その直後、霧散するようにして黒い影は消滅した。
「え? な、なにが……?」
戸惑う少女に、僕は直刀を鞘に納めてから振り返る。
「神気に当てられて、形が保てなくなったんだよ。あのくらいの低級霊なら、僕の力に耐えられるはずがないからね」
「えっと……よくわからないんですけど、あなたは神様なんですか?」
「――」
一瞬、迷う。何と答えたものか?
僕の剣を見ても驚いていないことや、一般人には見えないくらい力の弱い影の獣が見えていたことから考えても、彼女はこっちの世界に理解があるらしい。
それなら、話してしまっても問題はないだろう。
「まぁ、そうだね。一応、神様です」
僕の返事を聞いて、彼女の表情が一気に明るくなった。
「やっぱり! 戦わないで勝てちゃうなんて、すごい神様なんですね」
「い、いや……僕なんて大したことはないよ。威厳もないし、誰にも信仰されてないし……」
お金に困って出稼ぎに来てるし……とは、さすがに言わないでおいた。
「でも、あなたのおかげで助かりました。私一人だったら、どうなっていたか……あなたは命の恩人です!」
「……っ」
なんだろう、久しく忘れていた。人に感謝される、この感覚……。
正直、久々すぎて照れくさい。
ちょっと話題を変えたくて、まだ地面に座ったままの彼女に、そっと手を差し出した。
「とりあえず、立てる?」
「わぁ、ありがとうございます。強いだけじゃなくて、お優しいんですね」
この子は僕をほめ殺す気なのだろうか?
「いやいや、このくらい普通だから……」
「いえ、優しいですよ。誰がなんと言おうと、私がそう思ったんだから、優しいんです!」
「……君、意外とガンコだね」
「え? あはは……よく言われます」
恥ずかしそうに笑いながら、彼女が僕の手を取る。
そうして立ち上がろうとする彼女に合わせて、僕も手を強く引いた。しかし――
「あ、あれ? 足に力が……きゃあ!?」