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地下倉庫の悪霊9


 僕と夏希の二人がやる気を出していると、そこで新たに名乗り出る人物がいた。


「あの、私も一緒に行っていいですか?」


 かえでが、遠慮気味に小さくを手をあげる。


「私、ヤツカさんを応援したいんです!」


「え? 僕を……?」


 かえでの突然の表明に、僕は困惑し、夏希はショックを受けた様子だった。


「なるほど……かえでは私より、そいつを取るわけ?」


「な、夏希さん、ごめんなさい! そういうつもりでは!」


 慌てて否定してから、かえでは言葉を探すようにうつむいた。


「えっと、その……ヤツカさんは私のことを助けてくれた恩人ですし、お仕事が必要ならお手伝いしたいんです」


 かえでは少し不安そうに、僕の方に向き直って、


「手伝っちゃダメですか? 私じゃ足手まといかもしれませんけど」


「いや、それは……」


 足手まといとか、そういう次元の話ではない。

 かえでには超依り代体質がある。


 その倉庫にいるという悪霊に憑りつかれたらシャレにならない。


 かえでの気持ちは嬉しいが、断るしかないだろう。


 申し訳ない思いで返事をしようとしたのだが、それより先に秋穂さんが声を上げた。


「いいわね~。私が許可するわ。ヤツカちゃんはかえでちゃんとペアで挑戦ってことで」


「わぁ、ありがとうございます!」


 嬉しそうに飛び跳ねるかえでには悪いが、とっさに口をはさむ。


「秋穂さん、待ってください。悪霊がいるところにかえでを連れていくのは危険ですよね?」


「あら~? でも、昨日かえでちゃんに一生守るって、熱烈なプロポーズをしてたじゃない」


 秋穂さんの言葉に、かえでがわずかに顔を赤くして僕から視線を逸らす。


「っ! だ、だからあれはプロポーズじゃなくて……っ!」


 慌てて言い訳をする僕を遮って、秋穂さんが優しく微笑む。


「本当に守れるのかどうか、証明しておいたほうがいいんじゃないかしら~」


「……!」

 なるほど、言うだけなら簡単だ。


 どんな脅威の前でも彼女を守れることを行動で示さないと説得力がない。


「ヤツカちゃんが守り切れたら、夏希ちゃんも納得するわよね~?」


「……まぁ、一応ね」


 夏希は渋々といった様子でうなづいてから、かえでと僕を交互に見比べる。


「かえで、もし危なくなっても、私が助けるから安心して」


「はい、ありがとうございます!」


 かえでは満面の笑みである。


「あれ……僕、信頼されてない?」


「い、いえ! 違います、違います! もちろんヤツカさんが守ってくれると思ってますけど、夏希さんの気持ちも嬉しくて……」


 慌てて言いつくろってから、彼女は覚悟を決めるように両手の拳をにぎった。


「ヤツカさんの隣なら安心です。一緒に頑張りましょうね!」


 まっすぐ見つめてくる瞳から、本気で言っていることがわかる。


 その真剣な気持ちには、僕も全力で応えたい。


「わかった。どんな悪霊が相手でも、僕が守るよ」


 かえでを守りながら、秋穂さんからのお題を達成してみせる。


 そうすれば、かえでを守れる存在だと証明できるだろう。


「話はまとまったわね~。じゃあヤツカちゃん、案内するわ」


 秋穂さんの先導で、事務所を出る。


 一階まで階段を下っていくと、その先は厳重にふさがれていた。


 黒い扉に、太い鎖が巻かれ、いくつもの南京錠が取り付けらている。加えて、物々しいお札が何枚も貼られていた。


「なんですか、この扉……?」


「だから、ただの倉庫への扉よ~」


「絶対にただの倉庫ではないっ!」


 これほど強力な封印なんて見たことがない。


「中にいる悪霊が出てこないように、念のために蓋をしてあるの~。あと、間違って誰かが入らないようにね」


 説明しながら、秋穂さんがお札や南京錠を外していく。


 手際よく鎖を下すと、ドアノブに手をかける。


「じゃあ私はここで待ってるから、頑張ってきてね~」


 ゆっくりと扉が開けられる。


 解放された下り階段から、ひんやりとした空気が漏れだす。


 肌にまとわりつくような、ねっとりした嫌な感覚が全身を襲う。


「これは、なかなか……」


 この距離からでも、地下にいるモノが危険であることが伝わってくる。


「もたもたしてるなら、先に行くけど?」


 夏希が先行して階段を下りていくのを見て、僕はかえでに目を向ける。


「行こうか。僕のそばを離れないように」


「はい!」


 三人で順に地下へ向かっていくと、後方から秋穂さんが付け加える。


「取ってくる契約書は、部屋の真ん中にある黒い金庫の中だからね~。鍵はかかってないから、簡単に開けられるわよ」


「奥まで行く必要はないのか……」


 僕のつぶやきに、夏希が呆れるように肩をすくめる。


「奥には悪霊の本体がいるから、絶対に不可能な課題になるでしょ。そしたら勝負にならない」


「ここの悪霊って、そんなに強いの?」


「倉庫に入ったら、すぐにわかる」


 冷たく言い放った夏希が、最後の段に到達した。


 目の前には白い鉄製の扉。その隙間から、不吉な空気が漏れ出ていた。


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