地下倉庫の悪霊7
朝食は僕の分も用意されていた。
こんなちゃんとしたご飯を食べたのは、何日ぶりだろう。
「美味しかった……」
自然と感想が口をついて出た。
「ん!」
僕の感想に、小鈴は嬉しそうにひとつ頷く。
それから手を軽く振って、空になった食器類を神通力で浮かせる。それらを引き連れて、上の階へ戻っていく。
片付けに行く小鈴を見送ってから、秋穂さんが僕に向き直る。
「じゃあ、お仕事の話ね~」
「はい、なんでも言ってください! どんな仕事でもしますよ」
「うちのお仕事は、悪霊退治とか、幽霊関係の事件を解決することよ」
「だから、霊能事務所……?」
「そう。私、藤堂秋穂が所長なの~。だから私の一存でヤツカちゃんを雇えちゃうわ」
一番偉い人だったのか。
まぁ実力も含めて、この中では一線を画しているとは思っていたけれど。
「僕にもできる仕事ってあるんですか?」
「もちろんよ~。ヤツカちゃんなら大歓迎! 神様というだけでもありがたいのに、あんなに強いんだもの~」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど……そもそも神様って雇っていいんですかね?」
そこが一番の問題だった。
これまでたくさんのバイト面接を受けてきたが、すべて「身分証明書がない」というひどくまっとうな理由で落とされている。
それもすべて、僕が神様だから起きていた問題だ。
けれど、それはただの気にしすぎだった。
「だって、ここは霊能事務所よ。幽霊だって、化け物だって、神様だって雇っちゃうわよ~」
とのことだった。
秋穂さんはさらに付け加えて、
「実際、ミヤビちゃんも小鈴ちゃんも人間じゃないのに、うちの従業員だし~」
「貧乏神と、付喪神……」
「えぇ、どっちも立派な神様よ」
なるほど、すでに雇っているのなら、僕を雇えないはずはない。
「じゃあ、本当に仕事がもらえるんですね!?」
決意して出稼ぎにきたのに、なかなか働き口が見つからなかった。しかし、ついに!
僕の喜びを後押しするように、秋穂さんは笑顔を返してくれる。
「えぇ、もちろんここで――」
「ちょっと待った!」
と、そこに割り込む声がした。
「あら~? 夏希ちゃん、どうしたの?」
「私はまだ認めてないから!」
待ったをかけた夏希が僕をにらんでくる。
どうして、こうも敵視されているのか……。
「姉さん、ここには女の子しかいないんだから、男の神なんてよくない。特にこいつは色ボケ神みたいだし」
「……」
あぁ、はい。敵視される理由ありました。
「いや、だから誤解なんだって」
「かえでを押し倒して、着替えまで覗いて、今度は小鈴も襲おうとしたくせに?」
「だから、それが全部誤解なんだよ。たまたま、そういう風になっちゃっただけで」
「そんな偶然が何度も起きるはずないでしょ」
「――」
ごもっとも。返す言葉もない。
しかし本当のことなのだから、僕も引き下がれない。
「僕を雇ってくれる場所は他にないんだ。雇ってもらえないと困る」
「あなたの事情なんて知らない。とにかく私は反対だから」
意見は平行線で、先へ進みそうにない。
「う~ん……じゃあ、こうしましょうか~」
秋穂さんがひらめいたように手を打った。
「ヤツカちゃんと夏希ちゃんの二人で勝負して、勝ったほうの意見を採用するの~」
勝てば雇ってもらえる、負けたら追い出されるということか。
「なるほど、わかりやすい。悪いけど僕は本気でいくよ」
なんとしても勝つ。仕事をもらうために!
「望むところ。コテンパンにしてあげる」
夏希との間で、火花が散っている感覚がした。




